株式会社日本M&Aセンターから2023年10月にミダスキャピタルへ転職した田中菖平氏。M&A仲介からPEファンドへの転職は、業界でも珍しいといいます。同じM&Aに携わる仕事でも、求められる視点やスキルが異なるキャリアチェンジをなぜ決断したのでしょうか。現在は投資本部で投資案件のソーシングやM&Aのリードといった投資業務全般を担う、田中さんに転職の狙いやミダスキャピタルで得た知見を聞きました。
◆プロフィール
株式会社ミダスキャピタル
ディレクター
田中 菖平(たなか しょうへい)氏
上智大学経済学部卒業。株式会社日本M&Aセンターにて、M&A仲介業務全般に従事。主に、中堅・中小企業を対象とした案件ソーシング、エグゼキューション(契約交渉・クロージング支援)、財務・事業デューデリジェンス、株式価値評価、投資戦略の立案等を経験。2023年10月から株式会社ミダスキャピタルに参画。投資案件のソーシング、企業価値評価、デューデリジェンスに加え、既存投資先の経営支援やバリューアップ、FAブティックおよびM&A仲介会社とのリレーション構築など、投資業務全般を幅広く担当。
キャリアの出発点──日本M&Aセンターでの8年半
――まずは日本M&Aセンターでのキャリアについて教えてください。
新卒で株式会社日本M&Aセンターに入社し、8年半在籍しました。M&A仲介業務を一貫して担当し、ソーシングからバリュエーション、スキーム設計、デューデリジェンス、契約交渉、クロージング支援までの実務全般を経験しました。
IT業種を専門とする部署に所属していたこともあり、スタートアップ関連案件を数多く担当させていただきました。また案件獲得のために、書籍執筆やイベント企画といったマーケティング活動にも積極的に取り組みました。案件で印象に残っているのは、ある大企業の子会社のカーブアウト案件で、売り手側のFAとして関与し、難度の高いディールを成功に導いたことで社内表彰を受けたことです。
ミダスキャピタルのビジョンに強く共感
――2023年10月にミダスキャピタルに参画します。転職のきっかけは何でしたか。
自分自身の中で、そろそろコンフォートゾーンから抜けだすタイミングではないか、という想いが芽生えていました。8年半同じ環境で働く中で、通常業務を無理なくこなせるようになっていた一方で、成長実感が薄れてきたと感じていたのです。そんなタイミングで、ミダスキャピタル関係者の方からお声掛けをいただきました。
――ミダスキャピタルに対する印象は?
最も印象的だったのが、代表・吉村英毅さんの「世界に冠たる企業群をつくる」という強いビジョンです。
PEファンドは、投資先企業に資金や経営の知見を提供しながら、企業の成長を支援することで、従業員や株主をはじめとした多くのステークホルダーに価値を還元していく仕組みだと考えています。ですからファンドが投資活動を行うこと自体、一定の社会的意義があるように思います。
一方で、そうした構造的に社会貢献が内包されている業態であるがゆえ、ファンド運営会社自身が、どんな世界を実現したいのかといったビジョンを、あえて明確に掲げていないケースも少なくないと感じています。
一方、ミダスキャピタルは目指す世界観が明確で「長期的に時価総額100兆円の企業群を目指す」というビジョンを掲げています。投資先の成長に徹底的にこだわり、時価総額の最大化を唯一のKPIに据えています。吉村さんとお話させていただく中で、他に類を見ない企業と感じ、ミダスキャピタルで働いてみたいと思いました。
スキルセットの壁──M&A仲介とファンドの違い
――M&A仲介からファンドへのキャリアチェンジは珍しいのではないでしょうか。
そうですね、業界でもかなり稀なケースだと思います。M&A仲介とPEファンドでは求められるスキルセットが大きく異なるように感じます。ファンド業界の方の中には、「M&A仲介出身者にはファンド業務は難しい」と考える人もいるかもしれません。
私自身の見方としては、M&A仲介はどちらかというと営業力が重視される仕事で、優れた営業スキルを持つ人が活躍している印象です。他方、ファンドでは投資検討や、財務分析や経営戦略、企業価値の向上など、異なるスキルが求められます。そういった意味で、多くのことが未経験で、大きなチャレンジだったと感じています。
――自信はありましたか。
ある程度はありました。前職ではバリュエーションを中心とした財務モデリングを数え切れないほどこなしてきました。数字を扱うことへの抵抗はなく、むしろそれが自分の強みだと感じていたので「やってやれないことはないはず」と考えていました。
時間に縛られない柔軟性と、中長期的な価値創出へのこだわり
――現在、ミダスキャピタルでどのような業務を担当していますか。
私が所属する投資本部はM&Aやファイナンスの支援を行う部署です。その中で私自身は投資案件の検討や、投資先企業のロールアップ候補の検討など、M&Aに関連するソーシングからエグゼキューション業務を中心に行っています。
――ミダスキャピタルの投資戦略の特徴は何でしょうか。
一般的なPEファンドでは、限られた期間内での投資回収が求められるため、どうしても短期的に成果が出やすい投資や経営施策に偏りがちです。これはファンドの構造上、仕方のないものですが、その時間的制約が戦略の柔軟性や選択肢を狭めてしまう要因にもなっています。
ミダスキャピタルが運営するファンドは、実質的なファンド期限が到来しない為、長期的な視点からM&A戦略を描くことができます。例えば、中長期的に飛躍的に企業価値を高められるのであれば、短期的には赤字を掘るような、大胆な投資や成長戦略を採ることも可能です。
ミダスキャピタルでは投資先企業に対し、連続的なM&Aによる成長という選択肢も提示しています。一般的に、M&Aが企業価値に反映されるまでには一定のリードタイムが必要であり、通常のファンドではその時間を確保するのが難しい場面も多いかと思います。しかし、私たちは時間の制約を受けないため、投資先企業においてもM&Aを軸とした成長戦略が可能になります。このように、時間に縛られない柔軟性と、中長期的な価値創出へのこだわりが、ミダスキャピタルの投資戦略における大きな特徴と考えています。
――ミダスキャピタルではどのようなM&A案件を手がけましたか。
私がプロジェクトマネージャーを務め、クロージングまで導いた事例が複数あります。直近1年ではマリンフード、GROWTH VERSEのM&A案件で、案件ソーシングからクロージングまで全面的なサポートにより、企業価値向上に貢献できたのではないかと思います。成果を出すためには人より多く動くことを意識していて、イベントに参加したり、M&A仲介やFAブティック等の企業関係者にコンタクトをとったりしています。
――前職の経験はどのような面で生きていますか。
前職で培ったネットワークや、現場で身につけた感覚が大きいと感じています。M&A仲介やFAブティックの方とやり取りする機会が多いのですが、相手がどのような立場で、どんなインセンティブの基で動いているかを理解しているため、スムーズに連携が取れています。
また、買い手企業のニーズをヒアリングしながらM&A戦略を立てたM&A仲介での経験が、ミダスキャピタル投資先企業群のM&A戦略立案にも応用出来ているように感じます。投資案件の検討では、中堅・中小企業を中心としたM&Aを多く手がけてきたため、よりミクロな視点で案件を見る力が自然と身についており、現在の投資判断においても役立っていると感じています。
――ミダスキャピタルに入っての気付きはありますか。
振り返ると、前職では売り手側のアドバイザー業務の比重が大きく、買い手側への本質的な理解が浅かったと感じます。買い手側の立場では、いくらリスクを洗い出したとて、買収後に対象会社がどうなるかわからない部分も一定存在すると思います。また定性的・定量的なエビデンスが十分に揃っていたとしても、投資すべきというポジションを取ることには、常に怖さがつきまといます。買い手は、その不確実性や恐怖を抱えたままでも、最終的な意思決定を下すことが求められるのだと、今は強く実感しています。こうした感覚は、実際にミダスキャピタルに入って、当事者として意思決定に関わる中で初めて体感できたものです。その経験を通じて、自分の中でのM&Aに対する解釈も大きく変わったと感じています。
リファラル採用で傑出した人材が集まる
――ミダスキャピタルはリファラル採用が強みですが、田中さんも投資先企業群であるXpotential(エクスポテンシャル)の代表取締役社長に、元キーエンスの下村諒さんを紹介されたと聞きました。
下村さんは私の高校の同級生で、彼のことはよく知っています。キーエンスでは高い営業成績を納め、本社販促部門で国内外のマーケティング施策をリードしてきた実績があります。仕事へのストイックさやコミュニケーション力の高さなどから、成果を出せると思い、声をかけました。
リファラル採用は、前職の同僚や知り合いなどを自社に紹介することですが、ミダスキャピタルの場合はそれだけではなく、投資先企業群にも紹介します。リファラル採用で、ゴールドマン・サックスやリクルート、セールスフォースといった国内外の名だたる企業から傑出した方が参画しています。
ミダスキャピタルと投資先企業群は相互扶助の仕組みが上手く機能していますが、この相互扶助の強みを出せているのがリファラル採用です。CFO、CTOという世間で採用が難しいと言われるポジションに対して傑出した方が集まる背景だと考えています。
――M&A仲介からミダスキャピタルへの転職を考える人へのアドバイスをお願いします。
正直、私にとっては簡単な道ではありませんでした。同じM&A業務でも、求められる視点やスキルも異なっているように感じます。ただ、これまでの経験は必ず生きます。前提をリセットして学び直す覚悟があれば、見える景色は変わりますし、楽しめると思います。ミダスキャピタルが加速度的な成長を遂げるからこそ、投資検討できる案件の量も増えてきています。
――ミダスキャピタルへの転職がもたらしたものは、非常に大きかったと言えそうですね。ありがとうございました。