ゲームセンター大手のセガ エンタテインメントをM&Aするなど、積極的なM&Aで注目を集め、創業わずか5年で東京証券取引所グロース市場に上場を果たしたGENDA。2022年4月に同社の取締役に就任した佐藤 雄三氏に、GENDAに対する思いについて伺いました。
◆プロフィール
株式会社GENDA 取締役 CCO(Chief Communication Officer) 兼 コンテンツ&プロモーション事業最高責任者
佐藤 雄三
早稲田大学教育学部卒。
1986年、株式会社博報堂入社。2015年、株式会社TBWA\HAKUHODO代表取締役社長兼CEOに就任。同時に株式会社博報堂執行役員に就任。2018年、株式会社博報堂プロダクツ取締役常務執行役員に就任。
Campaign誌「2015 Japan/Korea Agency Head of the Year」受賞、第1回「Advertising Week Asia」アドバイザリー選出などの実績あり。
豊富な経営経験とキャリアに加え、広告、メディア、エンターテイメント領域における幅広い知見とネットワークを有している。
2022年4月より現職。
GENDAのカルチャーを醸成する「舵取り役」
――取締役CCOとして、GENDAではどのような領域を担当されているんですか?
GENDAのCCO(Chief Communication Officer)として、私は人事、総務、法務、ブランド、広報、リスクマネジメントなど、多岐にわたる業務を統括しています。専門的な部分は各領域の有能なメンバーに任せつつ、私はどちらかというと組織全体の一体感やロイヤリティを醸成することに焦点を当てています。
例えば、社内コミュニケーションはもちろん、M&Aでグループインした様々な企業とのコネクション強化や、グループの一体感醸成。こうした会社のカルチャーやオープンな空気感を作っていくことが、私の役割だと考えています。
私が舵取りをする際に意識しているのは、「話せばわかる」というキーワード。これまでの経験上、丁寧に、かつ戦略的にコミュニケーションをとっていけば、どんな状況であれ改善していけるのは間違いないと思っています。
――佐藤さんにはもう一つ、「コンテンツ&プロモーション事業最高責任者」という肩書きもありますね。
はい。CCOは本社機能的な肩書きですが、こちらはフロントライン的な肩書きです。
「エンタメ・コンテンツ」というGENDAの事業セグメントの中には、2つの領域があって、一つは、「キャラクター・マーチャンダイジング」の領域。キャラクターを使って景品を作るなど、どちらかというとメイン事業のゲームセンタービジネスと近い領域です。
もう一つは、GENDAの中ではまだまだこれからの、映画、音楽、イベントなどの領域。「コンテンツ&プロモーション」です。いい意味でも悪い意味でも、GENDAにとって「目立つ顔」となり得る存在だと思っていますが、「GENDAは広くエンタメを手がける会社なのだ」というイメージを伝えていくためにも、しっかり育てていかなければなりません。
今グループに入っている会社でいうと、映画配給会社のギャガ社や、VRや体験型のコンテンツを開発しているダイナモアミューズメント社がこの領域に入ります。
博報堂一筋から、59歳で初の転職
――GENDAにジョインされる前は、長年博報堂グループにいらっしゃったと伺いました。
博報堂グループに、かれこれ36年間勤めました。
1986年に新卒で博報堂に入社してから、2006年からは「TBWA\HAKUHODO」という博報堂、TBWAワールドワイドのジョイントベンチャーに出向しました。ここはグローバルクライアントに対応するブランドエージェンシーで、2015年には代表取締役社長CEOになりました。
2017年からは、「博報堂プロダクツ」へ異動。ここでは事業統括、経営企画、海外事業を担当して、M&Aも経験しています。これだけ多様な経験を積んでいるのは、博報堂グループの中だと珍しいケースかもしれません。
――GENDAとの出会いを教えてください。
最初にGENDAと関わったのは、2020年の6月頃。元々博報堂時代の部下で、現在株式会社BuySell Technologies代表取締役会長の岩田匡平さんに、「ちょっと面白い人間がいるので会ってみてください」と誘われて、現GENDA代表の片岡と申の4人で食事したのがきっかけです。
しばらくして、片岡から「例えば、社外取締役のような立場で加わってもらえないか」と打診をいただいたのですが、博報堂のルール上難しく断りました。
すると今度は「ならば定期的に僕に時間をくれませんか」と言われ、オンラインで壁打ちの相手のような役目をするようになりました。1年半ほど続きましたが、そのときに片岡の価値観や経営理念などを体感できたことは、後々とても意味を持つ貴重な経験となりました。
そうしたやりとりが続いている最中、2021年の春に、「社外取締役ではなく、社内取締役としてきてもらえないか」という正式なオファーをいただいたんです。博報堂の当時の年度が終わるまで11ヶ月待ってもらい、最終的に入社したのは2022年の4月。59歳と半年で、人生で初めて転職することになりました。
そのまま博報堂に居ようと思えば、なにがしかの居場所があるのではとは思っていましたが、一方で、博報堂で自分のできることはすべてやり尽くしたような感覚もありましたので、チャレンジの方を選びました。
GENDAなら私のこれまで培ってきた経験が役に立ち、世の中のために最も有効に使える方法だと考え、転職を決断しました。
――実際にGENDAに入社してみて、どのような印象でしたか?
一度のM&Aでいきなり会社の規模が10倍になり、瞬く間にメインプレーヤーになっていくプロセスは衝撃的でした。今までの人生では経験したことがないくらいのダイナミズムを感じています。
GENDAの設立当初から、片岡と申は「20年で世界一になりたい」と明快に宣言してきました。空事ではなく本気で実現するために、連続的にM&Aをし続けるという手法を使っているわけなのですが、これは今まで私がやってきたような、ひとつのフィールドで毎年業績を積み重ねていくビジネスの感覚とは大きく異なり、想像できないくらい飛躍的な成長をし得るなと感じました。
GENDAの異分子的な存在として、起爆剤の役割を果たしたい
――片岡会長からは、佐藤さんのどのような部分に期待されているのでしょうか。
オファーをいただいた時、私はゲームセンターにはほとんど行ったことがなかったですし、アミューズメント業界での仕事経験も皆無。正直なところ「なんで自分なの?」と、本当に意図が分からなかったんです。
でもしばらくして、私にどんなことを期待されているか見えてきた気がします。
一つは、エンタメの領域の人脈。片岡&申の両名は、いずれアミューズメント業界以外のエンタメ領域に事業を広げていきたいと思っていたのでしょう。アミューズメント業界のことは彼らが熟知しているけれど、エンタメ業界に明るい人材がもっと必要だと。私が長年培ってきた芸能や音楽の業界の人脈に期待されているのだと思います。
二つ目は、大企業の経営経験。私の場合、タイプの違う組織をいくつか経験しているので、多様な組織運営のノウハウやスキルを活かすことが求められているところもあると思います。
そしてもう一つ重要なのは、GENDAの異分子的な存在として起爆剤の役割を果たすことなのではないか、と思っています。
――異分子的な存在とは?
企業が何かしらの良い化学反応を起こす際、異分子のような要素が入った結果というケースがよくあるようです。GENDAはすでに片岡&申の間で良い化学反応が起きていたのですが、そこからさらに成長するための異分子的な存在が、必要なタイミングだったのかもしれません。
実際に私はアミューズメント業界出身ではないし、金融やM&Aのプロでもありません。既存のメンバーとはかなり年齢も離れています。GENDAは、30代半ばの若い世代が多い会社なのですが、私は今年62歳になりますから、この会社で1人だけ断トツでシニアな存在です。
キャリアも含めて、かなり異分子的な存在であることは確かだと思います。
「世界一位の企業」と同時に、「一流の企業」を目指す
――佐藤さんは、GENDAで叶えたい夢はありますか?
できれば、GENDAを「一流」の企業にしていきたいと考えています。「一位」と「一流」は、似て非なるものかなと思っていまして。
GENDAには非常に優秀な人材が揃っていますし、売上や利益、時価総額の面で「世界一位」のエンターテイメント・テックカンパニーの座を本気で狙っていけるでしょう。しかし、私は「世界一位」の企業であると同時に、「一流」の企業にもなっていってほしいと思っています。
オープンな環境でメンバーが互いに切磋琢磨しつつも助け合う、競争が生む勝者と敗者の双方にリスペクトを持てる、謙虚さとアグレッシブさをバランスよく体現できる、さらには、社内の目標だけに閉じずに世の中の課題と真摯に向き合える、こうしたカルチャーや一体感を築いていければ理想的です。
現在は片岡&申のリーダーシップのもと、ビジネスは非常に順調に進んでいます。しかし、これがずっと続くとは限りません。どれほど優秀なメンバーが揃っていても、いつかは疲れがたまったり、苦境に陥ったりする時が必ずやってきます。そうした時にこそ、乗り越えるためには自社の企業ブランドに対するプライドのようなものが不可欠になってくるのではないでしょうか?
GENDAは「世界中の人々の人生をより楽しく」というAspiration(大志)を掲げています。GENDAが在り続けることで一人でも多くのヒトがさらなる楽しさを受け取ることができていく、GENDAの在る世界と無い世界では、確実に世の中にある“楽しさの総量”は変わってくる。このAspirationを実現したい、とメンバーの一人ひとりが心の底から思える。そして、その全員がGENDAブランドに対するプライドとロイヤリティを持ち続ける。そんな一流の会社になっていけたら、と思っています。
これは一朝一夕にできることではありませんが、これまでの経験を活かし、私の立場だからこそできるやり方で、GENDAの成長に貢献していきたいと思っています。