世界中の貧困の連鎖を断ち切り、人々の人生の選択肢を広げてより良い社会をつくりたい——。そんな思いから設立されたミダス財団について紹介する特集の第2回。第1回に引き続き、財団の代表理事でミダスキャピタル代表パートナーの吉村英毅氏に話を聞きます。貧困地域の学校建設による地域への波及効果、そして「10年先、20年先を見据えた支援」とは、どのようなものでしょうか。
◆プロフィール
株式会社ミダスキャピタル 代表パートナー
吉村英毅(よしむら・ひでき)氏
東京大学経済学部卒業。2003年大学在学中に株式会社Valcomを創業。2007年株式会社エアトリを共同創業し代表取締役社長に就任(現在は退任) 。 2016年株式会社エアトリを東証マザーズに、2017年東証1部に上場。エアトリグループ会社の株式会社まぐまぐ、株式会社ハイブリッドテクノロジーズをそれぞれジャスダック、マザーズに上場。2017年株式会社ミダスキャピタルを創業。同年ミダスキャピタル第1号案件として株式会社BuySell Technologiesを買収。後に取締役会長に就任し、2019年東証マザーズ上場。2022年ミダス企業群の株式会社AViCが東証グロース上場。
新校舎は地域のシンボルに
社会事業は注目を浴びることも重要
――2020年に建て替えられたNa Khoang Elementary Schoolは、利便性の向上はもちろん、デザインがとてもユニークだと感じました。どのような点を意識しましたか?
校舎の建て替えとともに、学校に井戸を掘る、周辺の橋を建て替える、通学用の洋服や靴を支給するなど、地域のインフラを整備をすることで、周辺住民全員の生活レベル引き上げを意識しました。
現地の建築家たちがボランティアに近い形で入ってくれているので、デザインにもかなりこだわりがあります。清潔で明るい校舎で過ごすのは子どもたちにとっても快適な上、地域全体のシンボルにもなります。こうした社会事業は注目を浴びてレバレッジをかけていくことが重要なので、デザインにこだわることでそうした機能も果たせると考えています。
2020年に竣工したNa Khoang Elementary School。鮮やかなカラーの屋根が人目をひく。建て替え後は地域のシンボルとしても機能している
――エリアが抱える課題に気づけたのも、吉村さんが現地の方とかなり深く対話されたからではないかと思います。
ミダス財団の理事でもあり、エアトリのグループ会社でもあるハイブリッドテクノロジーズ代表取締役社長CEOのチャン・バン・ミン氏の存在があってこそだと考えています。彼は日本に国費留学をした経験があり、日本との縁も深い人。知人を介して知り合ったのがきっかけで、一緒にビジネスを始めることになりました。社会貢献に対する思いが強く、世界全体をもっと良い方向に変えていきたいという点で、私と理念をともにしています。
ミン氏自身が傑出したエンジニアでもあり、ベトナム人として初めて日本のマーケットに上場するなどビジネスの手腕もあります。そうした実績が評価され、ベトナムでは政治的な影響力も持っています。財団が支援を行うにあたって行政と調整する必要がありますが、そうした局面でミン氏が力添えしてくれることで、物事がかなりスムーズに進んでいると実感しています。また、ミン氏の夫人はミダス財団のフルタイム職員として、ベトナムの学校プロジェクトの中心的を進めてくれています。
――ミン氏ご夫妻の活躍があってこそ、プロジェクトがスピード感を持って進んだのですね。
その通りです。地域の課題を的確に炙り出すことに加え、間接コストを省くという点でもミン氏の交渉力に助けられています。貧困地域に学校を建設するプロジェクトは世界銀行や国連も取り組んでいますが、どうしても中間でお金がなくなっていくという問題があります。結果として、全体的なコストも膨らみます。
そこで私たちは建設費用は現地の企業に直接支払うなどして、間接コストを一切排除しています。これによって国連等のプロジェクトに比べて1/10程度のコストで済むので、プロジェクトの件数をどんどん増やせるようになりました。間接コストの排除は、「言うは易し」。誰もがそうしたいと思っても、実現はなかなか難しいことなのです。
――ベトナムでは、その後も学校建設を進めています。東南アジアのその他の地域については、どのような取り組みを考えていますか?
ベトナムでは現在までに2つの学校が完成し、2023年5月に3校目も完成しました。さらに本年中に2校を建て替える予定です。東南アジアでは、ベトナム以外でもカンボジアに小学校1校、ブータンでは若年層を含む生活困窮者の施設を作る予定。これもミンさんがそれぞれの課題を見つけてきてくれました。両国とも、王室の関係者と一緒に進めていきます。
Na Khoang Elementary School完成後に開催されたイベントでは、子どもたちが新しい校舎に心躍らせている様子が見えた
貧困の連鎖を断ち切るところまで、長期にわたって責任を持ちたい
――日本における活動として、子ども食堂の支援にもあたっていました。今後もその輪を広げるのでしょうか。
ミダス財団が大事にしているのは、支援先がそれぞれ何に困っているのかをしっかり聞くことです。子ども食堂はどこも運営資金に困っているようでしたが、大阪府のある施設に対しては施設そのものの維持に対する支援を、また埼玉県の施設ではクリスマスなどにスペシャルメニューを出すための予算など、施設ごとに意味のある活動ができたことは大きかったと思います。
ただ、これからは自分たちのプロジェクトにも注力していきたいと考えています。善意を持ってお金を投じているのに、成果が意図しない方向に行くのは避けたいからです。また、一度支援をしても、それがサステナブルな形にならないと根本的な課題は解決しません。短期、中期、長期と、それぞれに目標を立てながら、自分たちのプロジェクトに責任を持って取り組んでいきたいのです。
――資金を投じるだけではなく、最後まで責任を持つ。そうした考え方も、ミダス財団の特徴ではないかと感じました。
学校に通えなかった子どもたちが勉強の機会を得られるようになるのは意義深いことです。ただ、卒業後に年収5万円の農家を継ぐ道しか残されていなければ、貧困の連鎖から抜け出せることにはなりません。そこで放課後の課題学習のような形で、エンジニアの初等教育をやっていけないかと思っています。効果が現れるまでには時間がかかります。早くても10〜20年はかかるでしょう。教育によって村が貧困から脱出していく過程を責任を持って支援していきます。
お金を出すだけではなく、お金を目的に向かってどう投下するのかを効率的に考えられるのは、ビジネスに携わる人間だからこそ。そう自覚しています。目指す方向に向けて、これからも仲間とともに進んでいきます。
――ありがとうございました。