株式会社BuySell Technologies(以下、バイセル)が代表取締役会長の岩田匡平氏と代表取締役社長兼CEOの徳重浩介氏による共同代表体制でリスタートを切って1年。株式会社リクルートの事業部長として幅広い領域を統括し、組織マネジメントを牽引してきた徳重氏に新体制での成果や事業成長、岩田氏とのダブルエンジン体制の強みについて聞きました。
◆プロフィール
株式会社BuySell Technologies 代表取締役社長兼CEO
徳重 浩介(とくしげ・こうすけ)氏
立教大学社会学部現代文化学科卒。2006年に新卒で株式会社リクルート(現:リクルートホールディングス)に入社。飲食情報領域の営業を経て、株式会社リクルートマーケティングパートナーズにおいてマーケティング支援事業・教育支援事業の責任者として従事。2015年同社執行役員に就任。2019年に株式会社リクルートライフスタイルの執行役員に就任し、飲食店向け集客メディアやDX支援等を推進。2024年4月株式会社BuySell Technologies代表取締役社長兼CEOへ就任。
リクルートの事業責任者から経営者の道へ。意思決定の「覚悟」と「重み」に向き合う日々
── 2024年4月にバイセルのトップに就任、1年の振り返りを教えてください。
リクルートにいた頃は、事業責任者としてさまざまな領域に携わってきましたが、今は経営者として組織全体を見渡す立場となり、見える範囲や考えるべき視点の広さ・深さ、意思決定のスピード感など、変化の規模がまったく別次元だというのを実感しています。
大企業で部門の責任者を務めるのとは異なり、経営全体にダイレクトに影響を与える「決断」の連続だからこそ、論理的・合理的に物事を理解し、正しい意思決定ができるようにファイナンスやIR、M&Aなど自分にとって未知の分野の知識を身につける必要がありました。ただ、リクルート時代から「経営者としてのキャリアを積みたい」という想いがあったので、特に抵抗感なく入っていけましたね。
また、投資家や金融機関の方々と直接対話し、「経営者としてどう考えているのか」と問われる機会も増えました。そのたびに、新たな気づきを得たり、自分たちがどのように見られているのかを学んだりすることができています。こうした経験は、自分にとって非常に新鮮で刺激的であり、大きな成長の機会となっています。
── トップ就任後、どのような取り組みを行ってきましたか?バイセルの良いところの一方、課題に感じた点はありますか。
就任して1カ月はビジネスの計画や経営データなど定量的な情報を把握するのと同時に、マネジャー以上の社員全員と面談し、現場にも積極的に足を運びました。査定現場へ同行させてもらったり、店舗を訪れたり、仕分けや物流の現場を見て回ったりと、業務の流れを一通り体験しましたね。そして、自分なりに「100日プラン」を策定し、「変えるべきもの」「今は変えないもの」「変えてはいけないもの」を整理していったのです。
3カ月後のオールハンズ(全社集会) では、私自身の言葉でバイセルとして大切にすべきこと、さらに成長していくための必要な変化などを共有し、「変えないこと」「変えること・進化させること」を社員に直接伝えました。
バイセルの良い点として挙げられるのは「ベンチャー気質」が色濃く残っていることです。急成長している企業だからこそ、さまざまなポジションがあり、常に人材が求められています。また、チャレンジ精神旺盛な社員が多く、一人ひとりが幅広い業務に挑戦していく文化が根付いていると感じました。そういった前向きな姿勢は、どの企業にも負けない強みだと思います。
しかし、ベンチャーならではの勢いがある一方で、マネジメントの基盤や組織運営の成熟度にはまだ改善の余地があるとも感じていました。そこで、マネジメントのあり方や組織力を強化し、人材を成長させる仕組みを整えていく必要があると考えています。
その一環として人事制度を見直しました。以前の制度は終身雇用の考え方を前提につくられた仕組みで、今の時代にはそぐわない部分がありました。
市場環境や企業の戦略、経営方針が変われば、それに合わせて制度をアップデートするのは当然のことです。今回の制度変更も、特に無理に変えたわけではなく、会社の成長に合わせて最適化していったという感覚です。仕組み自体はまだ十分に整っているとは言えませんが、組織を拡大して成果を最大化させるためにも、ここは今後の伸びしろだと捉えています。
成長意欲を持つ人材が集まる好循環が生まれた
── ミダスキャピタルや他のミダス企業群との連携はどのように進んでいますか。
ミダスキャピタルは人材採用やファイナンスの面で圧倒的な強みを持っていて、IR活動の進め方についても貴重なアドバイスをいただいています。さらに、銀行など金融機関とのつながりに関する紹介やサポートもあり、効果的なIR戦略につなげることができているため、非常に助かっていますね。
取締役会には吉村さん(ミダスキャピタル代表パートナー)に取締役として参加いただき、適宜アドバイスをいただけるなど、手厚い支援を受けられる環境が整っています。もちろん、私自身も何かあればサポートする立場であり、他のミダス企業群メンバーから相談を受けたら全力で応えることを心がけています。
そういう意味では、ミダス企業群全体でまさに共存共栄・相互扶助の関係が実現できていて、お互いを支え合うコミュニティーが自然に形成されていることを強く実感しています。
── 1年という限られた時間軸ですが、途中成果や手応えはどうでしょうか。
まだ目指すべき姿には全然届いていませんが、毎日準備して実行している中で、手応えは感じています。事業成長とともに組織マネジメントを見直したことなどで、今期(2024年12月期)は売上高が前年同期比40.9%、営業利益が69.3%それぞれ増加し、営業利益率も大幅に改善しました。
前向きに自分を変えたい・成長したいという意欲を持つメンバーが増えてきていますし、求人に応募してくれる人たちの質も変わってきていると感じていますね。自分たちの取り組みを対外的に発信することで良い印象や評判が広がり、結果として、採用できる人材や一緒に働ける人たちのレベルが上がってきたと思っています。
評価基準の透明性と明確化を図り、成長機会の最大化を目指す
── 人事制度刷新などを手掛けているとうかがっています。どんな点に注力していますか。
人事制度の設計はリクルートの仕組みを大きく参考にしています。というのも、リクルートは60年という長い歴史の中で、人と組織の関係性を徹底的に研究し、磨き上げてきた企業であり、そこまで深く追求している企業は他に類を見ないからです。そのため、リクルートの仕組みは普遍性が高く、私たちの組織にも十分に通用すると考えています。
報酬制度についても、基本的にはリクルートの仕組みをほぼ踏襲しています。ミッショングレードに基づき、成果を上げた人にはしっかりと評価を反映し、昇格しやすい仕組みにしている一方で、2回連続で低評価だった場合には自動的にグレードが下がるように設計しました。グレードの降格を人の判断に依存させると、ポジションがだぶついてしまい、組織の硬直化を招く原因になります。これを防ぐためにも、フラットな基準で評価し、適正なポジション管理を行うことを重視しました。
バイセルは事業の成長スピードが速く、成長の機会が豊富にあるからこそ、成果を出せばより高い目標や新しいプロジェクトに挑戦できる環境が整っています。
制度の変更や伝え方において、トップとして最も重視しているのは「共感の接点」を作ることです。社員との面談や声を聞く中で把握した課題に応える形で制度を設計しています。以前の人事制度で聞かれた「評価が不透明」「フィードバックが曖昧」といった不満に対しては、新人事制度で公平で明確な仕組みを導入し、努力が正当に報われる環境を整えたことろ、8割以上の社員から共感を得られています。
もちろん、意見が合わない社員には、会社の方向性や考えを丁寧に説明し、アンケートやキックオフの場でも疑問に即座に答えるよう心がけており、お互いの対話を重視していますね。
ダブルエンジン体制で意思決定の精度を上げる
── 会長・社長のダブルエンジン体制の強みと課題を教えてください。
私は事業の推進や会社全体のマネジメント、収益率向上のオペレーション強化に取り組みつつ、岩田さんはM&Aや海外展開を積極的に推進しています。それぞれの得意領域を出力全開で早い意思決定で推進するのは当然ですが、お互いの担当領域が完全に分かれているわけではなく、私もM&Aや海外展開をチェックしますし、岩田さんも国内事業に関与します。そのため、両方の視点から物事を見ることで、抜け漏れを防ぎ、意思決定の精度が上げられるのが強みです。
指摘する視点が二人とも違うからこそ、より確度の高い判断ができると考えています。国内事業に関しても、私自身が自分で決めたいというよりも、最適解を導き出したいという考えがあるので、意思決定へのこだわりは特に持っていません。
ただ、社員たちがどちらに報告すべきか迷ったり、両方に相談しなければならなかったりすると、どうしても意思決定が複雑になり、時間を要してしまいます。そのような非効率な部分は、すぐに解消していきたいですね。
── 経営者として今後どのように会社を牽引していきたいですか?
今年の期初では「つながり」をテーマに掲げました。機能的な繋がりがないと、業務に抜け漏れが発生したり重複作業も増えたりして、ストレスの原因になります。また、物理的な繋がりや精神的な繋がりが薄れると、モチベーションの低下につながりますし、情緒的な繋がりは人が気持ちよく働くために欠かせません。
これらの「つながり」を強化することが、最終的に 生産性の向上 につながると考えています。生産性の向上は単純に収益性が高まることだけでなく、全社員が顧客への提供価値に目線が向いて、モチベーションアップにも繋がる好循環を生む起点だと思います。制度や仕組みは「骨と肉」ですが、人と人との温かい繋がりを大事にし、バランスを大切にしながら、会社を運営していきたいと思っています。
大事なのは「腹落ち」であり、単に情報を伝えるのではなく、納得感を生み出して組織全体の意思統一を図ることが経営者の本質的な役割だと捉えています。
積み上げ型の成長戦略で注力する3つのポイント
── 2027年12月期までの新中期経営計画では、売上高1,400億円、営業利益110億円を掲げました。計画に込めた思いもぜひお願いいたします。
中期経営計画について、野心的に思われる節もありますが、実際は全くそんなことはありません。今回の計画もM&Aは織り込んでおらず、過去のトレンドを踏まえた上で実現可能な積み上げ型の計画 を立てています。M&Aや経営施策の開拓が進めば、売上・利益のさらなる成長も見込めます。
リユース市場において、売れるもの・買い取れるものはお客様が思っている以上にたくさん存在していて、「かくれ資産」が市場に多く眠っているからこそ、この市場はさらに注目されるはずです。加えて、循環型社会の加速や二次流通の需要拡大などが事業環境の追い風になっていると言えるでしょう。
こうしたなか、今後の経営では「マネジメントの強化とオペレーションの最適化」「マーケティングの高度化」「経営人材の確保と育成」の3つに注力します。
確実に収益を積み上げていくために、組織としての管理体制を強化し、マーケティングについても多様な手法を試しながら最適化していく予定です。さらに、事業の拡大に伴って経営人材の採用と育成が不可欠になりますので、バイセルが持続的な成長を目指していくために、データ活用やプロダクトマネジメント、マーケティング、そして経営者としての資質を持った人材を増やしていきたいと思っています。
リユース業界は、まだまだ未成熟で成長白地が非常に大きく、他領域で様々なビジネス経験豊富な人材との交流も比較的少ない業界だと捉えています。私たちが本気で経営を強化し、組織力を高めることで、業界内で大きな競争優位を築けると確信しています。私たちの取り組み次第で差別化が可能であり、業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立できると考えています。
さらに、私たちのような労働集約型の業界では、AIやデータ活用の付加価値が非常に高いと感じており、AIの活用についても積極的に実施していきます。例えば、コールセンターでの業務や査定のプロセスでは、AIの導入によって今よりも査定時間を短縮することができれば、お客様とより多くコミュニケーションを取る時間に充てられ、さらなる顧客満足度の向上につながると考えています。
── ありがとうございました。今後の成長を楽しみにしています。