観光・インバウンド領域で多方面に事業を展開し、2024年2月にミダスキャピタルが運営するファンド等を引受先としたプレシリーズAで、4億円の資金調達と新経営体制を発表した羅針盤。中学時代からの友人であり、共に起業した代表取締役の佐々木文人氏と取締役トラベル事業本部長の河野有氏に、羅針盤が描く未来の展望について聞きました。
◆プロフィール
株式会社羅針盤 代表取締役
佐々木文人(ささき ふみと)
東京大学経済学部卒業。株式会社損害保険ジャパンを経て、ボストン・コンサルティング・グループへ。結婚後退職し、1年間の世界一周新婚旅行を経て2014年に株式会社ノットワールドを創業。2015年より、東京で外国人向けのツアーを企画・催行開始。4年連続でtripadvisorのエクセレンス認証を獲得。2023年合併に伴い株式会社羅針盤代表取締役に就任。
株式会社羅針盤 取締役 トラベル事業本部長
河野 有(こうの ゆう)
東京大学在学中はボクシング部で主将を務める。卒業後、株式会社電通にて新聞局に所属。8年間の在職中に新聞社の資産活用による新規事業・キャンペーンを企画・実施。
退職後、1年間の世界一周を経て2014年に株式会社ノットワールドを創業。オプショナルツアー事業や地域のコンサルティング事業を立ち上げ、推進。2023年4月より現職。
全国通訳案内士、総合旅行業務取扱管理者。
旧縁の信頼関係で切りひらいてきた、インバウンド事業
――お二人は、駒場東邦中学校一年生からの仲だとうかがいました。
河野
はい。私たちは中学1年生の時に席が前後だった以来、中学と高校で同じサッカー部に所属していた仲間なんです。サッカー部の仲間とは、卒業後もずっと付き合いが続いていて、社会人になってからも毎週集まって飲みにいっていた時期もありました。
佐々木
私は2012年に勤めていた会社を退職し、一年間の世界一周新婚旅行に行ったのですが、たまたま河野も近い時期に世界一周旅行を計画していて、これが一緒に起業するきっかけとなりました。世界旅行中、何度か合流しているうちに「帰ったら一緒に観光事業をやろう」と話すようになったんです。帰国後、河野と我が家で起業に向けた戦略会議を始めたのですが、そのまま半年間くらい居候という形で同居していました。
河野
ずうずうしくも新婚生活にお邪魔する形だったのですが、佐々木の奥さんも了承してくれました。当時は奥さんが私の下着まで洗ってくれていたくらいですから、完全に私も佐々木ファミリーの一員だと思っています(笑)
――お二人の信頼関係が伝わってきます。
増資引受先であるミダスキャピタル代表の吉村さんとも古いご友人だとか。
佐々木
そうなんです。吉村さんは、私たちが同じ大学で知り合った友人です。最近ビジネスのシーンではお互いに「吉村代表」や「佐々木社長」と呼び合うようになりましたが、大学時代から仲が良かったので、プライベートでは下の名前で呼び合っているような間柄です。
河野
吉村さんには、本当に感謝しています。私たちが起業して本格的に事業が動き出そうとした矢先にコロナ禍に突入してしまい、生きることに必死な状態になったことがありました。コロナによる入国制限が解除されたら、インバウンドの競争が激化するのは明らかなのに、身動きが取れない苦しい状態。
そんなときに相談したのが吉村さんでした。長年の友人と、こうしてビジネスでも協力し合える関係になれたことは、本当に心強く思います。
インバウンドの追い風と資金調達で、成長を加速
――2024年2月に発表された今回の資金調達には、どのような狙いがあったのでしょうか。
佐々木
今回は事業の成長に必要な投資として、人材採用と着物レンタル事業の二つに焦点を当て、資金調達を行いました。
インバウンド需要の高まりで、今後は観光業界の競争が一気に激化していくことでしょう。この流れのなかで重要なのは、スピード感をもって一気に成長していくことだと考えています。
――人材採用は、どのように強化していくのでしょうか。
佐々木
今回、新しい経営体制として人事戦略本部長(CHRO)を設置しました。羅針盤くらいの規模の会社で、このポジションがあるのは珍しいかもしれません。
観光業界は、人材の採用こそが成長のドライバー。人が全てと言っても過言ではありません。このタイミングで全事業を通じて採用を加速させていくために、人事戦略本部長(CHRO)として楠橋にジョインしてもらいました。
河野
観光業界は、弊社で言うと、「ガイドがツアーを行う」「着付けをする」など、最終的なサービス提供の場面で人が直接関わることが多い業界なんですよね。
ただ、このようにアナログな部分も多い観光業界において、テクノロジーとマーケティングを駆使し、より効率的に運営していくことも、私たちの挑戦の一つです。これが実現すれば、成長が一気に加速すると考えています。
――設立から約1年で、多くのプロフェッショナル人材が参画していますね。
着物レンタル事業は、今後どのように拡大していくのでしょうか。
河野
着物レンタル事業も今後さらに競争が激化していくことが予想されますが、私たちは観光客の多い場所を中心に拠点を増やし、Web検索で選ばれやすい導線を整えて集客を図ることで、勝負していこうと考えています。
着物レンタル事業は、もともと日本全国で19店舗を展開していましたが、コロナ禍で一旦クローズした店舗も多く、現在運営しているのは7店舗。今後は東京と京都を中心に、再び店舗を増やしていく予定です。直近では、来月に京都タワー店の増床を予定しており、さらなる成長を目指しています。
佐々木
将来的には、着物を着るという文化自体を国内により広く普及させていくことも、私たちのミッションだと考えています。着物を着ている日本人を見かけることは少ないですが、日本人が日常的に着物を着てこそ、観光客もその魅力に惹かれ、着物を着てみたいと思ってもらえるのではないかと思うんです。
例えば浅草のような観光地で、地域の人々が日常的に着物を着る風景が当たり前になるようなまちづくりができたら、観光資源としても有意義ですよね。日本人にとって着物をもっと身近な存在にしていくことは、私たちのミッション「文化を次世代につなぐ」に関連する大切な挑戦です。
観光業界のリーディングカンパニーを目指して
――羅針盤が思い描く未来を教えてください。
佐々木
これまで着物レンタル事業、トラベル事業、宿泊管理事業、地域プロデュース事業という4本を軸に事業広げてきましたが、数年以内には主力事業の幅を一、二本増やし、いずれは観光業界のあらゆる事業が集まる「観光の総合商社」のようになっていきたいと考えています。
それともう一つ、観光にまつわる仕事の人気をあげていきたいという思いもあります。一見、人気に見られることが多い観光業の仕事ですが、昇給やキャリアアップの機会に恵まれず、30、40代になると業界を離れてしまう人も少なくないのが現状です。
観光業の仕事は、もっと多くの人々に憧れられるような人気産業になれるはず。市場が成長している中で勝負できるのはワクワクしますし、「お金をかけても最高の体験をしたい」という人々にサービスを提供する事業なので、付加価値を追求できるのも大きな魅力です。
河野
そうですね。観光業が盛り上がれば、良い人材が集まり、さらに観光業全体が発展する好循環を生み出せるはずです。今のインバウンドの大きな流れは、その好循環のきっかけになると思います。羅針盤が「観光業界のリーディングカンパニー」となるよう、しっかり結果を出してまいります。
代表佐々木の単独インタビューもぜひご覧ください。