株式会社キーエンスで培った「再現性のある営業手法」を武器に、特殊冷凍スタートアップを業界有数のメーカーへと導いた下村諒氏が、株式会社Xpotentialの代表取締役社長に就いて半年。創業者である山下貴宏氏とのダブルエンジン体制による新たな挑戦を始めています。セールスイネーブルメント市場に革新を起こすXpotentialの強みと、ミダスキャピタルとの連携がもたらす相乗効果に迫ります。
◆プロフィール
株式会社Xpotential 代表取締役会長
山下 貴宏(やました・たかひろ)氏
日本ヒューレット・パッカード株式会社、株式会社船井総合研究所、マーサー・ジャパン株式会社、株式会社セールスフォース・ドットコム Sales Enablement本部長を経て、2019年R-Square & Companyを創業(2024年1月に社名変更)し代表取締役社長兼CEOに就任。2025年2月から現職。著書に「セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方」(かんき出版)、「トップセールスだけに頼らない組織を作る 実践セールス・イネーブルメント」(翔泳社)
株式会社Xpotential 代表取締役社長
下村 諒(しもむら・りょう)氏
新卒で株式会社キーエンス入社。同社でセールス、グループリーダーを経て、本社販促グループに配属。国内および海外マーケティングにおける分析・企画立案・戦略設計・構築・実行などを担当。その後、特殊冷凍スタートアップのデイブレイク株式会社にて取締役COO に就任。特殊冷凍機のメーカー事業をゼロから立ち上げ、 3年半で業界有数のメーカーに育てる。その後独立し、2025年2月から現職。
キーエンスで学んだ独自の営業手法とビジネススキル
―― 最初に下村さんのキャリアを教えてください。
下村
2015年に新卒でキーエンスに入社しました。営業として配属されましたが、最初は思うような成果を出せませんでした。しかし、その経験が「イネーブルメント」に興味を持つきっかけになったように思います。セールスイネーブルメントとは「成果を出す営業社員を輩出し続ける人材育成の仕組み」のことです。
キーエンスには圧倒的な営業力を持つ方がたくさんいて、当時の私はとにかく真似をすることを考えていたんです。でも、そのまま取り入れることは難しく壁に突き当たりました。
あるとき「属人的なやり方をそのまま真似するのではなく、成果を出している営業担当者の行動や思考を抽象化し、構造的に理解してはどうだろう」と気付いたんです。優秀な営業メンバーへのヒアリングや営業同行を通じて、成功のエッセンスを分析し、自分の性格やスキルに合わせて取り入れることで、自分なりのやり方を見つけました。
それが大きな転機になり、入社1年目の終わりごろから安定して成果を出せるようになりました。
再現性のある営業手法の構築とノウハウの共有を評価していただき、本社の販促グループに異動しました。新しいポジションでは、国内外のマーケティング戦略立案から実行までを担当し、費用対効果の分析や施策の効果検証を通じて、戦略全体のPDCAを回す役割を果たしました。
── 前職の特殊冷凍スタートアップでは取締役COOを務め、3年半で業界有数のメーカーへと成長させました。
下村
キーエンスで培ったビジネススキルが通用すれば、事業成長に貢献できると思って入社しましたが、実際には大企業では当たり前だったリソースや仕組みが整っていない環境で最初は戸惑いました。
そのような中で、メーカー事業の立ち上げを主導し、商品開発から生産体制構築まで幅広く経験しましたが、組織づくりの難しさと面白さの両面を実感しました。多様なメンバーをまとめ、売り上げを創出するプロセスが、今の自分のキャリアの軸である「セールスイネーブルメント」への関心を高めたと感じています。
まずは自分自身が成果を出せる「型」を確立し、キーエンスで得たノウハウをどうやって言語化・体系化し、他のメンバーに伝えるのか。組織の成長に貢献することを常に意識して取り組んでいました。
営業生産性の最大化を目指すXpotentialに可能性を感じた
── Xpotentialへジョインしたのはどのような経緯があったのでしょうか。
下村
スタートアップ退職後は、個人事業主としてレベニューイネーブルメント領域に取り組んでいました。しかし、企業の商材特性や組織の成熟度によっては、キーエンスで有効だった営業手法が機能しないケースが多く、再現性の限界を痛感したんです。そんなとき、高校時代の同級生であるミダスキャピタルのディレクターからお引き合わせいただき、Xpotential代表の山下さんと面談を重ねました。
コミュニケーションをとるなかで、これまで自分の見えていなかった視点を数多くお持ちだった山下さんの考えに共感し、さらには「セールスイネーブルメント × データサイエンス」という独自の切り口で確かな成果を出されていることに惹かれました。
チームのレベルも非常に高く、異なる専門性を持つメンバーが有機的に連携しながら取り組むことで、「営業生産性の最大化」に本質的に寄与するソリューションを生み出せるのではと感じたのです。こうした独自性と将来性を感じたことが、Xpotentialにジョインする決め手となりました。
── 山下さんは、下村さんとお会いした時の印象はいかがでしたか?
山下
私たちが作りたい世界観や事業を通して解決したい課題に対し、下村さんは熱意を持って真剣に取り組んでいる姿勢が印象的でした。これまでも、さまざまな方とお会いしてきましたが、私たちが注力しているセールスイネーブルメント領域に本気でコミットしたいという人には、なかなか出会えなかったんです。
下村さんはキーエンスで培った営業ノウハウやスキルを備え、短期間でスタートアップの成長に貢献したという確かな実績もお持ちで、私自身が持っていなかった経験を補完してくれる稀有な存在だと思いました。
異なる専門性と経験が有機的に交わる 会長と社長のダブルエンジン体制
── 下村さんが代表取締役社長に就いて半年経ちましたが、手応えは感じていますか?
下村
代表取締役という立場は初めての挑戦ですので、責任の重さを日々感じています。社内外からいただくさまざまなフィードバックを糧にしながら学び、成長している最中です。大きな刺激になっているのが、ミダスキャピタルの投資先企業群の経営陣です。私はよくバイセルテクノロジーズの徳重さん(代表取締役社長兼CEO)にご指導いただいており、悩みがあるときには都度相談しています。
事業に関しては道半ばではありますが、Xpotentialがもともと持っていた強みと、私の営業経験や事業推進のケイパビリティが組み合わさり、ソリューションの「幅」と「深さ」が広がったと感じています。その結果、より多様なお客さまに対して支援の幅が広がり、売り上げ、利益にも貢献できています。
── 山下さんが会長になられて、ダブルエンジン体制になったことによる優位性はどこにあるとお考えでしょうか。
山下
私はもともと、ITをはじめとした無形商材の営業が得意で、抽象的な価値をどう伝えるかという点に強みがあります。一方で、下村さんは製造業などの有形商材に強く、瞬時に本質を理解し、売り物・売り先・売り方まで含めて具体的な提案につなげることに長けています。
このようにお互いの得意領域が異なっているため、ダブルエンジン体制になった今ではそれぞれの専門性を相互補完し合える形ができています。実際、お客さまとのやり取りにおいても、ダブルエンジン体制の強みが活きていると実感しています。
さらに、会社の雰囲気やスピード感も明らかに変化していて、「こうすればもっとお客様の課題に寄り添えるのでは」といった前向きな提案や意見が、以前に比べて社内から積極的に出てくるようになりました。組織全体に良い循環を生み出しており、ポジティブな相乗効果につながっていると感じています。
下村
山下さんは、セールスフォースのセールスイネーブルメント本部でグローバルでも高い実績を出していました。いわば、外側から育成専門の立場で営業を支援するスタイルで成果を出してきたタイプです。
対して私は、実際に営業組織の中に入って、営業のハイパフォーマー兼営業部長としてけん引してきた経験がメインです。
このように、営業組織を「内」から伸ばしてきた自分、「外」から支援してきた山下さんという異なる視点を持ったダブルエンジンだからこそ、うまく補完し合っていると感じています。例えば、営業現場の目線で良いと思ったことも、外部の視点では視野が狭くなっていると気づけるわけです。そうした多角的な視点でお客さまを支援できているのが強みだと思います。
拡大するイネーブルメント市場で“第一想起”を狙う
── ミダスキャピタルやミダス企業群との関係性は、どのような価値をエクスポテンシャルにもたらしていますか?
下村
当社の場合、会社自体の認知度はそこまで高くないため、初期フェーズにおいて優秀な人材を獲得するのは容易ではないという課題がありました。そうしたなか、ミダスキャピタルの強みの一つである人的支援は助けになっています。
また私自身が、これまで事業サイドでの経験が中心だったため、ファイナンスを中心としたコーポレートサイドの知識を体系的に学ぶ機会は多くありませんでした。ファイナンスを含め、ミダスキャピタルからIPOを見据え、今やるべきことを助言していただき手厚いサポートと感じます。
山下
顧客紹介の機会があるのも大きなメリットです。実際、当社で過去最大規模の、とある業界最大手企業とのディールが決まったのも、ミダスキャピタルを通じてその企業の役員の方とのご縁をいただいたことがきっかけでした。
最大の特徴は、経営者同士のネットワークの濃さだと思います。ミダスキャピタル自体がその価値を認識し、柱に据えている点も心強いですね。今後も「ネットワークの質」を強みにしてほしいです。
── 今後、会社の成長を見据え、取り組んでいきたいことをお聞かせください。
下村
当社のビジネスモデルでは、優秀な人材を惹きつけ、そこから事業を加速させるような仕組みや仕掛けを構築していく必要があります。同時に、企業価値を高めていくためには、新たな事業展開についても戦略的に考えていくことが求められるでしょう。そうした観点からも、ミダスキャピタルのバリューアップチームの皆さんにご支援いただきながら、「人・モノ・カネ・情報」といった経営資源を適切に整備し、質の高い判断を下していく体制づくりが重要だと考えています。
山下
この2〜3年で、セールスイネーブルメント領域の認知は確実に広がってきています。競合他社の参入も増えているのを見ても、市場自体の広がりを実感します。今後は市場の中で「セールスイネーブルメントといえばXpotential」というポジションを定着させ、第一想起を確立させたいですね。
狙うべき領域としては、営業人員が多く、属人的な営業スタイルが残っているような業界です。日本では製造業が多いですし、全国展開している企業やメーカー傘下の販売会社など、営業生産性の改善インパクトが大きい領域に注力して支援を拡大していきたいと考えています。
── ありがとうございました。今後の成長が楽しみですね。