特別養子縁組の支援をリードする存在へ ミダス財団 吉村代表・玉川事業統括インタビュー

東南アジアの貧困地域において小学校や孤児院を建設するほか、国内の子ども食堂への支援など社会課題解決に向けた事業を行ってきたミダス財団。2024年4月、特別養子縁組の支援拡充に向けて特定非営利活動法人ストークサポートとの提携を発表しました。ミダス財団代表の吉村英毅氏と、事業統括の玉川絵里氏に、特別養子縁組事業への思いを聞きました。

◆プロフィール

株式会社ミダスキャピタル 代表パートナー / ミダス財団代表
吉村英毅(よしむら・ひでき)氏

東京大学経済学部卒業。2003年大学在学中に株式会社Valcomを創業。2007年株式会社エアトリを共同創業し代表取締役社長に就任(現在は退任) 。 2016年株式会社エアトリを東証マザーズに、2017年東証1部に上場。エアトリグループ会社の株式会社まぐまぐ、株式会社ハイブリッドテクノロジーズをそれぞれジャスダック、マザーズに上場。2017年株式会社ミダスキャピタルを創業。同年ミダスキャピタル第1号案件として株式会社BuySell Technologiesを買収。後に取締役会長に就任し、2019年東証マザーズ上場。2022年ミダス企業群の株式会社AViCが東証グロース上場。

ミダス財団 事業統括 
玉川絵里 氏

2012年東京大学法学部を卒業し、同年三菱総合研究所入社。『イノベーションによる解決が期待される社会課題一覧(日・英)』(2022年、三菱総合研究所)や、『「共領域」からの新・戦略 イノベーションは社会実装で結実する』(2021年12月、ダイヤモンド社)などの発信実績をもつ。2024年1月よりミダス財団に事業統括として従事。

安定した経営基盤で、特別養子縁組の課題を長期的に解決していく

――どのような経緯で、特別養子縁組事業への参入を決めたのでしょうか。

吉村

ミダス財団は今回、新たに取り組むべき社会課題の選定にあたりRidilover社と協力し、日本のさまざまな社会課題を包括的に調査しました。多様な社会課題が候補に並びましたが、いかに重要な社会課題であっても、地球規模の環境問題のように一財団の資金では解決できないものや、解決の糸口が見えないものも多くあります。そのなかで私たちは、社会的貢献の本質に焦点を当て、ミダス財団が参入することで大きなインパクトを出せるであろう課題を軸に選定しました。ディスカッションを重ね、最終的に関係者の全会一致で決定したのが特別養子縁組事業です。

日本の特別養子縁組が抱えている課題の一つは、マッチングの弱さです。予期せぬ妊娠で生まれる赤ちゃんがいる一方、不妊治療に取り組まれている方や子どもを育てたいと思っている方も潜在的には多くいらっしゃるはずなので、経営資源さえあれば、家庭養護を必要とする子どもたちに、適切な支援を届けることができるはずなのです。しかし営利性が低い業界であるため、民間企業がビジネスとして取り組むのは困難。だからこそ、ミダス財団が介入することで大きなインパクトを出せると考えました。

玉川

ミダス財団は、ミダスキャピタルの収益の10%に加え、毎年吉村代表の個人資産の一部が寄付される仕組みになっています。ミダス財団のように長期的に安定した経営基盤が、特別養子縁組事業では特に必要です。

というのも、特別養子縁組された子どもが、20年後、30年後に改めて「生みの親について知りたい」と思うかもしれませんよね。そのときにしっかりと団体が存続していることが肝心なんです。ミダス財団なら、安定して長期的に事業を継続できます。

特別養子縁組業界が抱える深刻な資金不足と人材不足

――日本の特別養子縁組は、現在どのような課題を抱えているのでしょうか。

玉川

現在、日本には社会的養護の必要な子どもたちが約4万2千人います。そのうち7〜8割は乳児院や児童養護施設などの施設で育てられています。これは家庭での養護が中心となっている先進国の基準からすると、異常な割合です。日本でも政府が2017年に「施設から家庭へ」という方針を掲げ、特別養子縁組の年間成立目標を1000件と定めているのですが、今年度中の達成は難しいでしょう。

その背景には、収入源や人材リソース不足の問題があります。公的機関である児童相談所は、虐待などの緊急案件に対応するために手一杯で、特別養子縁組のような案件には十分なリソースを割けていないのが現状です。

一方で、日本には民間の特別養子縁組あっせん団体が22団体ありますが、活動資金が限られているため赤字運営の団体も少なくありません。なぜなら、民間団体の主な収入源は、特別養子縁組成立時に養親から受け取る手数料のみ。つまり実母の妊娠中から相談にのっていても、出産後に「やっぱり自分で育てたい」となった場合、団体は活動資金が得られません。団体は予期しない妊娠に困ったという相談は特別養子縁組の希望に関わらず、すべてに対応し、必要な支援に繋げています。そのため、特別養子縁組にならない相談に対応するために人件費がかかり赤字になる場合があり、現場ではジレンマを抱えていることも多いのです。

経営基盤が不安定であることは、相談員の労働環境の問題にもつながっています。一般的に妊娠相談のような業務は週末や夜間におよぶことがあるにもかかわらず、給料が低くなりがちです。このような労働環境では新人採用も困難なうえ、退職者も増えてしまいます。スキルのある相談員が育てられなければ、必要なところへ支援が届けられません。

提携から1ヶ月。人材育成やマーケティング支援の手応え

――NPO法人ストークサポートとの提携で、どのような変化が期待できるのでしょうか。

玉川

ストークサポートも他の民間団体と同様に、資金繰りと人材不足に悩まされていました。4月にミダス財団が支援を開始し、人材採用の面ではすでに手応えを感じています。提携後、ストークサポートの相談員の給料を上げました。さらに時間休の導入など、子育てや介護との両立を支援し、健康的に長く働けるよう労働環境を改善しました。提携開始から2ヶ月で、すでに新しい相談員を2名採用できました。引き続き採用活動を継続しています。

また人材育成という点においては、画期的な仕組みも採用しました。ミダスキャピタルの投資先企業群であるXpotential社が、「イネーブルメント」の手法を活用して相談員の育成に取り組んでいます。この手法は、ベテラン相談員の相談援助スキルを、さまざまな場面の時系列で切り出し言語化することで、改善できる点を分析しながら人材育成していくというプログラムです。例えば実母の方からのメール相談に、どのような対応をしたら返信率が良いのかなど、細かな部分まで洗い出しました。

このように「イネーブルメント」の手法をNPOに適用するのは、日本では初めてのことです。NPO業界は、人材育成に苦労しながらも仕組み化されていないところがほとんどなので、今回の取り組みの有効性が実証されれば、他のNPOの人材育成課題の解決にも役立つかもしれません。この課題解決をミダス財団が主導できることは誇らしく思います。

――ミダスキャピタルの投資先企業群も協力して、専門的な支援をしているのですね。

玉川

はい。Xpotential社のほかにも、AViC社はデジタルマーケティングの専門家として4月からGoogle広告の運用を全面的に支援してくれています。プロの目線から広告に最適なキーワードを提案してくれて、実験しながら運用しています。

これまでも、ストークサポートのスタッフが勉強しながらWebマーケティングを運用してきましたが、NPOが利用できる補助制度の情報共有や、効率的な広告の運用を支援したことで、現在は広告費をおさえつつ効果的に運用できるようになりました。

今後もAViC社のデジタルマーケティング支援を受け、養親になりたい方や不妊治療中の方に、特別養子縁組という選択肢を伝えることで、長期的な支援の土壌を整えてまいります。

吉村

Xpotential社やAViC社のように、ミダスキャピタルの投資先企業群が協力し、専門性の高い分野を支援する仕組みは、非常に実践的で効果的です。

また、ミダスキャピタルの投資先企業群の方々にとっても、モチベーションにつながっています。ミダス財団を通じて、社会的に必要な事業を支援できることは、意義深いことですよね。

特別養子縁組業界をリードする存在になっていきたい

――今後の目標について教えてください。

玉川

長期的な目標は、家庭養護を必要とする子どもたちが一人もこぼれることなく支援を受けられるよう、特別養子縁組事業を充実させていくことです。日本国内の特別養子縁組あっせん団体の皆様とも連携していきたいです。ミダス財団が特別養子縁組分野のさまざまな課題解決をリードする存在になれたらとも思っています。

今回ストークサポートとの提携が良い形で成立したことで、吉村さんからは「このレベルの提携を、毎年1件くらいのペースで成立させ続けていきたい」と言われています。

吉村

そうですね。そのくらいのモチベーションで、さまざまな取り組みを加速させていきたいと思っています。ただ、ひとつずつ成功を重ねなければ意味はありません。ビジネスとは異なる難しさもあるでしょう。また、いくら資金があるとしても、それを雑に使うことは絶対にしたくありません。ミダス財団としてリソースを最適に活用し、最大のインパクトを得られるよう全力を尽くしてまいります。

ミダス財団 事業統括 玉川の単独インタビューもぜひご覧ください。

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