2017年、ミダスキャピタル創業期に投資の第一号案件となったBuySell Technologies。苦楽を共にしてきた岩田匡平代表取締役社長兼CEOとミダスキャピタルの吉村英毅代表パートナーに、その出会いやIPOまでの道のりを振り返ってもらいました。お互いの強み、そして信頼関係を表す「あるエピソード」にも注目です。

◆プロフィール

株式会社BuySell Technologies 代表取締役社長兼CEO
岩田匡平（いわた・きょうへい）氏

東京大学工学部システム創成学科卒。株式会社博報堂を経てマーケティングコンサルティング等を提供するOWL株式会社（現・株式会社AViC）を2014年に創業し代表取締役就任。ベンチャー企業を中心とした急成長企業のマーケティング活動を幅広く支援。2016年6月よりBuySell Technologiesののコンサルティングを開始し、2016年10月に取締役として参画。リユース事業全体を管掌し、2017年9月に代表取締役社長兼CEO就任。

株式会社ミダスキャピタル 代表パートナー
吉村英毅（よしむら・ひでき）氏

東京大学経済学部経営学科卒。2003年大学在学中に株式会社Valcomを創業。2007年株式会社エアトリを共同創業し代表取締役社長に就任(株式会社Valcomを吸収合併)。2016年株式会社エアトリを東証マザーズ上場、2017年東証1部上場。2017年株式会社ミダスキャピタルを創業し、後に代表取締役社長に就任。同年ミダスキャピタル第1号案件として株式会社BuySell Technologiesを買収。後に取締役会長に就任し、2019年東証マザーズ上場。

サークルの先輩・後輩から、信頼できる仲間へ

――BuySell Technologiesは、ミダスキャピタルによる投資の第一号案件になった企業です。岩田さんは2016年に同社のコンサルティングをしたことがきっかけに、取締役として参画されたとのことですが、ミダスキャピタルとの関わりはどのようにして生まれたのでしょうか。

岩田　吉村さんとは大学時代のサークルの先輩・後輩として出会いました。大学時代の吉村さんの印象を一言で表すと、いい意味で「ユニークな先輩」。東大出身者の多くが国家公務員や士業などの進路を選ぶ中で、学生時代から起業という独自の路線を歩んでいた吉村さんを尊敬していました。

私は新卒で広告代理店に就職し、2014年にマーケティングコンサルティング業を立ち上げました。ところが、なかなか思ったように物事が進まないことが多く、当時すでにエアトリを成功させていた吉村さんにアドバイスをもらおうと思い立ちました。それをきっかけに、数年ぶりに交流が再開したのです。

その後、何社かのマーケティングのコンサルタントを手掛ける中で、吉村さんに紹介されたのがBuySell Technologiesでした。IPOを目指す中で、ミダスキャピタルと一緒にバイアウトを行うことになったのです。

吉村　岩田さんは学生時代からリーダーシップが強く、グループの中心となる人物でした。2016年からはBuySell Technologiesでマーケティング担当の取締役として成果を出していますが、何より優れていると感じているのは物事を考える際の精度や深さなどが飛び抜けていることです。

ご自身でも「データドリブン経営」と話す通り、かなり細かくKPIを設定されています。以前、その数を聞いたら100近くあって驚きました。実際、岩田さんがコンサルティングに入ってから同社の業績は赤字から見事に脱却しています。ミダスキャピタルが投資して以降は業績も右肩上がり。主要なKPIも着実に達成されています。これができる経営者はなかなかいません。

岩田　吉村さんの印象は今も昔も変わらないのですが、投資先企業の一員として関わるようになってからは、よりその人柄に惚れ込みました。「2040年に時価総額100兆円を目指す」というミダスキャピタルの構想を聞いた当初はかなりスケールが大きいと感じましたが、吉村さんの話を聞いているうちに実現できるような気がしてきました。説得力があるのに誰にでもていねいに接していて、たくさんの夢を持っている人。吉村さんには多くの人を寄せ付ける引力のようなものを感じます。

IPO直後にかけてもらった「ある一言」に感動

――バイアウトを経て、岩田さんは2017年10月にBuySellTechnologiesの社長に就任されています。経営の先輩として、吉村さんから岩田さんにはどのようなアドバイスをされたのでしょうか。

吉村　求心力という点において、創業経営者とM&Aで入ってきた経営者のそれは異なります。「外から入ってきたのだから、とにかく丁寧で謙虚な姿勢を見せたほうがいい」と岩田さんには伝えました。M&AしてからIPOするまで2年ありましたが、最初の1年間はとても苦労しているように見えました。でも後半の1年間で人への接し方やコンセンサスの取り方などが大きく変わったように見えました。少しずつ周囲の信頼も得て、誰からも尊敬される社長になっていく様子がよく分かりました。

岩田　20歳で起業して以来、ずっと創業経営者だった吉村さんも経験していないことも多かったはずなのに、どんな小さなことでも一緒に悩んでくれました。

IPO直後に、吉村さんにかけてもらった一言が今でも忘れられません。M&Aにあたって当時の自分としてはかなり大きな借金を背負い、まさに後には引けない状態で挑みました。だからこそ、2019年の12月に東証の鐘を叩いた瞬間の感動は言葉にはし尽くせないものでした。

その日の夜のこと。役員たちが集まって喜びを共有している席で、吉村さんが一言、「賭けに勝ったね」と言って握手してくれたんです。これには痺れましたね。共同買収するために、ミダスキャピタルも大きな出資をしてくれたので。吉村さんがBuySell Technologies、そして私に賭けてくれていたことを改めて実感し、共に歩んだ苦労が一気に報われました。

――吉村さんもBuySell TechnologiesのM&Aを経て新たなフェーズに移られたと思いますが、ここから学んだことはありますか。

吉村　　「ビジネスはボードメンバーがすべて」ということに気づきました。エアトリで約15年間社長を務めてきた経緯から、自分は会社経営が得意だと思っていました。だから、BuySell Technologiesのバイアウトを考え始めた当初は、「自分がBuySell Technologiesを経営したほうがいいのかもしれないけれど、物理的に難しいから岩田さんに任せよう」という感覚が多少なりともありました。でも事業をきめ細やかに、かつ力強くグロースさせていく岩田さんを見て、そもそも彼が社長をやるべきだったのだと腹に落ちました。

大きなビジョンを描いてさまざまな人にジョインしてもらえるように務めていく。それこそが、自分がやるべきこと。ミダスキャピタルの投資先企業群も、今いる経営陣がリードしてくれているから成り立つのです。岩田さんのおかげで、そう考えるようになりました。

後編では、吉村氏、岩田氏が共に思い描く「夢」について聞いていきます。