組織の成長を阻む「アンコンシャス・バイアス」とは? ミダスキャピタル勉強会レポート

近年、注目を浴びている「アンコンシャス・バイアス」というキーワード。自分自身では気づかないものの、「無意識の偏見」を持った発言や行動をしてしまうことを指します。「ささいなこと」「よくあること」と見過ごされがちですが、パワハラや社員のモチベーション低下につながる恐れもあります。そこでミダスキャピタルは、投資先企業の経営者を対象とした勉強会を2回にわたって開催しました。今回は2022年8月31日にGoogleの山地由里氏を講師に招いた対面形式、10月20日にXTalent株式会社の筒井八恵氏と高橋俊晃氏を招いたオンライン形式の勉強会から、「アンコンシャス・バイアスによるビジネスへの影響と、その対処法」を紹介します。

 

◆講師プロフィール

山地由里(やまち・ゆり)氏
米国系企業でのダイバーシティ日本統括担当を経て、Googleに入社。アジアパシフィック地域のダイバーシティを担当。2018年からは人事の分野を離れ、新規ビジネス開発を担当。

筒井八恵(つつい・やえ)氏
助産師や企業での人事・採用支援、自治体や企業へのダイバーシティ研修企画・講師等を経て、現在はXTalent株式会社で事業開発・広報を担当。

高橋俊晃(たかはし・としあき)氏
プライム上場企業で人的資本開示プロジェクトを担当。現在はXTalent株式会社でDEI事業に従事。

 

アンコンシャス・バイアスが組織に与える影響は大きい

そもそも、アンコンシャス・バイアスはなぜ生じるのでしょうか。筒井氏は「一般的に、人は物事を解釈したり判断したりするときに脳の中の最も近道を経由して考える傾向にある」と話します。

「生まれ育った社会文化的背景や人生経験を通じて、誰しもが何らかのバイアスを持っています。これは人の脳構造によるもの。私たちの脳が取り込む情報の大部分は、無意識のうちに処理されています。脳の意識的な処理能力は非常に小さいため、日常生活における業務の多くを無意識的な処理にアウトソースしているのですこの脳機能を自覚した上で、何ができるかを考えていくことが大切です」

では、アンコンシャス・バイアスが組織の中で生じると、どんな問題に発展するのでしょうか。筒井氏はいくつかの事例をあげます。採用活動の中で自分と似た人を評価し、メンバーの強みに偏りが生じてしまう。新規事業開発をする際、顧客のニーズ把握が漏れてしまう。PRやマーケティングの発信時に誰かを排除するような表現をしてしまうことでブランド価値の低下につながってしまう。「これらの行為が意図せず行われた結果、大きな影響を及ぼしてしまうのです」(筒井氏)

アンコンシャス・バイアスが顕在化した形のひとつが「マイクロアグレッション」です。例えば、「米国籍の人に「思ったことをはっきり言うのはお国柄ですよね」と言ってしまう。これは「米国人ははっきりモノを言うだろう」という思い込みから生まれた発言です。「相手に『自分はこの組織において逸脱した存在である』と感じさせてしまう場合がある」と筒井氏は解説します。

相手を傷つける意図はなくても、受け取り手が「私は出自にもとづいて蔑まれている」と感じてしまったら、それはマイクロアグレッションということ。特に社会的マイノリティの人々は、このようなマイクロアグレッションを日々感じています。「こうした経験によって心身の健康や職務満足度などへの影響も出てくる」と筒井氏は続けます。

「インクルーシブな職場をつくる上で、マイクロアグレッションは『ないほうが好ましい』という程度では済みません。仕事の生産性に大きく影響を与えるので、なくしていくべきと考えていたほうがいいでしょう。そのためには目的意識を持ってトレーニングを行う必要があります」

 

アンコンシャス・バイアスに出会ったら? 伝え方をロールプレイで学ぶ

人はどうしても自分と似ているバックグラウンドを持つ人物を評価してしまう傾向にあります。そんな中で「自分はバイアスを持っているかも」と意識するだけで、相手をフラットに評価できる可能性があります。

会場では参加者がグループワークで体験する機会も設けられました。会場講師の山地氏のシナリオをもとに行われたのは、こんなロールプレイ。同僚3人の会話という設定で、山地氏演じる社員が「営業に行くのに女性らしい格好をしていないのは問題があると思う」「女性はキレイに見えたほうが、お客さんのウケがいい」と発言します。それを聞いた参加者が「正しいバイアスか、誤っているバイアスか」など意見を出し合いました。

ロールプレイ後に山地氏から参加者へ掛けたのは「相手の考えを矯正しようとは思わないほうがいい」というアドバイスでした。

「良かれと思って正義を振りかざしてしまうことがほとんど。だから、人にさりげなく指摘されることで、無意識のバイアスが減らせる可能性があります。相手を無理に変えようとせず、人の善意を信じて、自分の思いが相手に少しでも残るように伝えてください。長い目で見れば、きっといい効果があります」

相手との関係性によっては、その場でアンコンシャス・バイアスを指摘するのも難しいもの。山地氏は「お互いに当事者ではない場合、後から指摘するという手もある」と解説します。

「その場では話題を変えて、あとから個人的に話をする機会を設けてください。『先ほどの話は、私はあまり好きではなかった』と自分の価値観と関連づけて話をしてみるのもいいでしょう」

会場では、講師の山地氏の解説を参考に、アンコンシャス・バイアスのロールプレイに真剣に取り組む姿が見られました

 

アンコンシャス・バイアスとともにDEIを考える

勉強会には「アンコンシャスバイアスとDEI(多様性、公平性、包摂性)のつながりを理解したいという声も多く寄せられました。筒井氏はまず、「ダイバーシティ(多様性)には2つの側面があることを知ってほしい」と話します。一つは人種や性別、年齢など「属性」によるもの。もう一つは「知と経験」のダイバーシティです。教育や職歴、スキルレベルといった仕事に直接かかわるものもあれば、価値観も含まれます。これを踏まえて、筒井氏はこう続けます。

「組織にDEIが必要な理由は複数あります。まずは雇用市場における優位性の獲得。2023年から有価証券報告書に男女間賃金格差、女性管理職比率、男性育休取得率などの開示義務が課されます。「男性育休を取っても評価に影響がない会社なのか」という視点で考える採用候補者も出てくるでしょう。また、新しいプロダクトを作る上でも、多様な人材が関わることで「全ての人にとって使いやすいものになっているかどうか」という点を補強しやすくなると言えます」

(オンライン研修のスライドから抜粋)

組織に多様性があるだけでは競争力を発揮しづらく、エクイティ(公平性)やインクルージョン(包摂性)が伴うことで、多様性を活かす土壌が機能するようになります。組織の競争力を伸ばすためにも、リテラシー不足の解消やアンコンシャス・バイアスマネジメントは不可欠です。

グローバル企業においても、DEIレポートを公開する企業が増えているとのこと。これからの企業は、アンコンシャス・バイアスマネジメントとDEI推進をより関連づけて考える必要がありそうです。

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