「飲食店向け仕込み代行」に介護・医療の現場からも熱い視線  シコメルフードテック 西原直良社長インタビュー

スマホアプリで仕込み済み商品の発注ができるサービス「シコメル」などを提供する、株式会社シコメルフードテック。同社は2019年の創業以来、人手不足や仕入れの手間に悩む多くの飲食店を救ってきました。アプリダウンロード数の増加に加え、さらにここ数カ月で、病院や介護保険施設など、飲食店以外からの問い合わせが続いているといいます。西原直良社長に話を聞きました。

◆プロフィール

株式会社 シコメルフードテック代表取締役CEO
西原直良(にしはら・なおよし)氏

⼤学在学中に⾷品卸・製造業の株式会社⻄友フーズを創業。20年に渡り⾷品・飲⾷業界にてビジネスを展開する中、戦後から変わらない飲⾷業界の「仕込み」作業と「受発注」のアナログな⼿法に疑問をもち、2019年に現COOの川本傑とともにシコメルフードテックを創業。

 

100歳近い女性がフライドチキンバーガーに舌鼓
シコメルが「介護・医療の食」を変える

――2020年10月のサービス開始以来、順調にユーザー数を伸ばしています。2022年5月には、アプリダウンロード数が累計1万を突破。また、ここ最近、テレビのニュースなどで紹介されることも増えてきました。

2021年に1.5億円の資金調達を実施したのをきっかけに採用を強化し、広報に力を入れ始めたことで、各種メディアで取り上げられることも増えてきました。ある日、シコメルが取り上げられた記事を読んだ介護福祉施設から問い合わせがあったんです。介護福祉施設の食事は塩分、カロリー、やわらかさなどを利用者向けに調整していますが、メニューのバリエーションの少なさや味への不満が入居者から上がっていたようです。そこで、「飲食店に卸している商品を使ってみたい」「ゆくゆくは施設オリジナルの仕込み済み商品を開発できないか」という相談がありました。さらに話を聞いてみると、調理の人手不足や食べ残しの廃棄など、現場スタッフもさまざまな悩みを抱えていることが分かりました。

私たちは当初シコメルを通して、仕込みにまつわる労働時間の削減や人件費や食材費の利益率の向上を図り、飲食店の課題を解決していきたいと考えていました。でも、仕込みは飲食店以外でも発生します。1本の電話が、こうした領域に目を向けるきっかけになりました。

 

――シコメルにはプロのシェフが開発した仕込み済みの商品もラインアップされています。おいしい上に、温めて盛り付けるだけだから手間がかからない。飲食店ではなくても、つい使ってみたくなるかもしれません。実際に試してもらったところ、どんな反響があったのでしょうか。

「いつもはあまり食べない人が、完食してくれた」という、うれしい報告をもらいました。中には、98歳で最近食欲が落ちてきたという利用者が、フライドチキンバーガーをおいしそうに食べていたという話もありました。

 

――ハンバーガー、それもフライドチキンとあっては、ボリュームも歯応えもありそうです。高齢者向けに手を加えて提供されたのでしょうか。

都内にある、フードデリバリーで人気のお店で出している商品をそのまま食べてもらいました。個人差はあると思いますが、いくつになってもおいしかったら噛めるし、食べられる。誰だっておいしいものが食べたいんだと、改めて気付かされました。

 

――シコメルがこうした施設の食の概念を変化させたんですね。

本当にありがたいことです。現在、ある施設の協力を得てデータを集めています。そちらではシコメル導入後、これまで70〜75%だった喫食率が最大で13ポイント上がっていました。それと連動して、残飯の廃棄率も57%削減。仕込みや食材の発注時間が短縮されたことで、調理スタッフ数も7人から3人に減りました。こうした事例を知ってもらうことで、飲食業界以外の領域にも興味を持ってもらえるのではないでしょうか。今期は1600の新規メニューを開発します。2022年冬には介護・医療向けのメニューを増設して販売していく予定です。今後は子どもや学生向け施設などにも働きかけていきたいです。

 

食品業界の経験で身につけたユーザー目線
「次世代食」にも意欲

――シコメルへの評価で、「アプリが使いやすい」という声を非常によく聞きます。

アプリには余計なものは一切追加しないようにしています。念頭に置いているのは、「ITに苦手意識がある人でも使いこなせること」。私は約20年前に輸入食品卸売業を立ち上げ、多くの飲食店と取引してきました。そんな中で気になったのは、注文のほとんどが留守電かFAXだったことでした。特に2010年代以降は、ほとんどの人がスマートフォンを持っていてネット通販で買い物しています。それなのに、食材の仕入れや仕込みは相変わらず昔のやり方のまま。だから、ネット通販くらい簡単な機能なら使ってもらえるのではないかと考えました。

2022年9月には新たに投資家5社と個人投資家1名から約8.2億円の資金調達を実施しました。これを受け、アプリのUI/UXの改善など、より使いやすさを追求するつもりです。また、管理部門、サービス開発や営業、技術部門などの人材を強化し、2023年までに現在のメンバーの2倍となる40人体制を目指します。

 

――確かに、複雑すぎて使いこなせないアプリもあります。ご自身の目で見てきたからこそ、気づいたことですね。

私が起業したのは、アパレル事業を経営していた父から「客層が広い食の分野で独立してやってみたらどうか」と勧められたのがきっかけ(「シコメルフードテックが挑む『食品×ITテクノロジー』西原直良社長インタビュー」)。手探りで始めたものの、続けていく中で、どんどん見えてくるものがありました。

私が経営する食品製造会社では小ロットかつ短い納期でも対応できることを売りにしていましたが、とりわけ手応えを感じたのは、レシピを預かって製造するOEM受託販売。飲食店のセントラルキッチン代わりとして使ってもらえると、その店がなくならない限りはお付き合いが続きます。業者を変えるとまた一から考えないといけないので、手間が増えますからね。これにテクノロジーを応用して、もっと大きなビジネスができないかと考えました。それが今のシコメルの原点です。

 

――食品業界で長年培ってきた経験と、新しいことに挑戦していきたいという西原さんの思いが、今のシコメルにつながっているのだと感じました。

レガシーな業界に対して、ゲームチェンジャーになるという気持ちは常に持ち続けていたいです。新しく入ってくるメンバーも、そんな志を持った人であってほしい。まだ具体的な話ではありませんが、今興味があるのは大豆食など、いわゆる「次世代食材」。研究の分野にいた方にも参画してもらいたいです。

私は大学在学中に起業したため、会社員経験がないので、社内での上下関係にはこだわりがありません。部下にもよくダメだしされていますしね(笑)。誰もが主役というつもりで、どんどん声を上げてほしいです。

 

――ありがとうございました。

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