「小売業界特化型のDXソリューションを提供するイングリウッドが目指すテクノロジー経営」 株式会社イングリウッド黒川隆介CEOと大森崇弘CTOに聞く

株式会社イングリウッド黒川隆介CEOと大森崇弘CTO

テクノロジーは会社の経営をどのように強化することができるのだろうか。また、反対に経営はテクノロジーを強化することができるのか。ECを起点として、AI・データテクノロジー事業で成長し続けている株式会社イングリウッドは、今年5月に初めてCTO(Chief Technology Officer)を迎え入れた。これまで培ってきた経験と蓄積されたナレッジ、データを活用して、今後ますますテック経営に力を入れていきたい考えだ。イングリウッドが取り組むテック経営や今後の展望などについて、黒川隆介CEOと大森崇弘CTOに聞いた。(敬称略)

 

「小売業だけで生き残るのは難しい」試行錯誤したからこそある”今”

――黒川さんは創業者でもありますが、どのようにしてイングリウッドをここまで成長させてきたのでしょうか。

株式会社イングリウッド 大森崇弘CTO

黒川 大学を卒業後、個人事業主として30万円の資本金で、アメリカ製品のエクスポート事業を始めました。その後、有限会社イングリウッドを設立して、2011年まではBtoC事業に携わります。少ない人数ながらも高収益を上げられるBtoCビジネスを作ることができて、多くの経験や知識を培うことができました。そこで得たノウハウを生かしてBtoBのECソリューション事業を立ち上げ、2014年に株式会社に組織変更したのです。

 弊社の売上は2018年度は40億円、2019年度は110億円、そして2020年度が150億円と、年々大きく伸びています。これまで、少しずつナレッジを積み重ね、ソリューションの内容を磨きあげてきたからこその成長だという自負はありますね。

 

――小売業として培った知見を生かして、BtoCからBtoBの事業へ拡大したことが大きな転換期だったと言えそうですね。

黒川 小売業は「地べた産業」とも言われていて、まるでタケノコのように次から次へと新しい企業や商品が出てくる中で、生き残るのは非常に難しいことです。自らそういった業界の厳しさを経験して、人口減少が進み続ける日本で、どのように利益化できるか、試行錯誤しながらここまでやってきました。小売業界特化型のDXソリューションの提供を、今後も続けていきたいと考えています。

 

「ようやくCTOに迎え入れたい人物に出会えた」

――大森さんは、今年イングリウッドのCTOに就任されましたが、それまではどのようなキャリアを歩まれてきましたか。

株式会社イングリウッド 黒川隆介CEO

大森 私は2014年に大学院卒業後、リクルートコミュニケーションズに入社しました。新規Webサービスの立ち上げや社内データ基盤などのエンジニアを務めた後に、ビューティ事業や飲食事業のシステム開発、開発のマネジメント業務に携わります。そこでは、BtoCのサービスだけではなく、飲食店や美容院向けのBtoBのサービスの開発にも力を入れていました。また、2020年にはライフスタイル領域プロダクト開発部長として、さまざまな開発組織に対して指針を示すということも経験出来ました。

 

――その後、どのようなきっかけでイングリウッドへの参画を決めたのでしょうか。

大森 昨年末に大学時代の友人の紹介で黒川さんとお会いして、小売業界に対する独自の解釈・事業構想に大きな関心を抱きました。事業として、まだ誰も実現できていないことで、世の中をよりよく変えることができる。それは生きていくうえで非常に面白いことだし、ぜひやってみたいと感じたのです。

 さらに、「小売業を変えていきたい」という黒川さんの思慮深さと熱量に惹かれました。経営については大変シビアな面を見せつつ、一方で世の中の人々の幸福の実現に真摯に向き合っている。そういった人柄に触れて、「一緒に働きたい」と感じました。

 

――黒川さんにとって、大森さんの印象はいかがでしたか。

黒川 私は日頃から社員や周りの人たちに、「自分の周りで一番優秀な人間を教えて」と言っているのですが、大森もその一人でした。「学生時代からだれよりも賢くて、リクルートでトップ出世している友人がいる」と聞いて、「ぜひ会わせてくれ」と伝えました。リクルートという素晴らしい企業で、トップエンジニアとして大きなチームをまとめている能力の高さに非常に好感を持ちました。

 我々はテクノロジー企業でありながらも、「CTO」という最高責任者を今までおかずにやってきました。それというのも、これまでずっと我々が求めるCTOに相応しい人物には出会えなかったのです。CTOとしてはトップエンジニアであることはもちろんですが、経営者として理想を追いつつ現実も見ることができるというスキルセットが要求されます。これまで役員として迎えてきたメンバーは、全員スーパーマンみたいな人間なのですが、まさに大森もそんなスーパーマンの一人だと感じました。

 

小売業に特化している企業だからこそ業界全体を下支えできる

――小売業特化型の企業であるイングリウッドでは、テクノロジーの重要性をどのように考えていますか。

黒川 小売業界のヒエラルキーは、頂点がかなり尖っていて、裾野が非常に広がっている形です。下層には個人の小さなお店が多くあって、どうやって利益化するか、非常に困っている人も多い現状です。私自身が個人で事業していた経験もあるので、その方たちの気持ちが手に取るようにわかります。

 そうした小売業で苦労している企業や個人向けに提供できるようなソリューションを提供するべく、テクノロジーの力を使っていきたいと思っています。たとえば、マーチャンダイジングとファイナンスの観点から、市場のリサーチや商品の値付け、事業のPL(損益計算書)や商品のPLなどの業務をこちらでサポートします。何を作って売ればいいか、どういった原価率でやればいいのか、どうすればずっと続けられるかという問いに答えを出してあげたいです。

 

――大森さんは、小売業界におけるテクノロジーの役割について、どのように考えていますか。

大森 前職で担当していた飲食店もそうでしたが、小売業に携わっている一人ひとりが、さまざまな悩みを抱えているんですよね。ツールを使いこなせれば一瞬でできるような書類の作成を、手計算でなんとかやり切っている事業者もいますが、本当はもっとやりたいことに注力できると世界がいいと思っています。

 真に多くの方に使い続けていただけるプロダクトを作ることは、事業構造も業界構造も現場業務を理解している会社にしかできないと、自身の経験から強く感じています。イングリウッドにならそれが実現できるだろうし、広く・大きくスケールさせられるものとして作ることが開発としての務めだと思います。また、弊社がもともと研究してきていたAIや機械学習などは日々進化し続けている分野なので、商品販売や管理に関するナレッジやデータを活用できる形にしっかりと落とし込むことでその威力をうまく活かし切りたいです。

 

――お二人の根底には、小売業界全体をよりよくしていきたいという思いがあるんですね。

黒川 弊社は昨年度の売り上げが150億円で過去最高となりましたが、ここまで来るのは容易ではありませんでした。弊社初めて外部株主を招き入れたのは2020年で、それまでには何度も危機を乗り越えてきました。ものを売るのは本当に楽しいことですが、そう簡単ではない。だからこそ、テクノロジーの力でリサーチや値付けを可視化することで、業界を下支えしたいという思いがありますね。

 長年小売業界を見てきましたが、ここ最近は商品の「ベーシック化」が進んでいるように感じています。その背景には業界の衰退があるような気がしています。だからこそ、業界を活性化して、新たな価値創造をしていきたい。革新的なものを売る人たちの成功確率を上げることが、我々の使命だと思っています。

 

「テックに力を入れたい」変わらぬ思い

――1年以上、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、今だからこそ、テック経営に力を入れたいという考えはありますか。

黒川 個人で事業を始めた当時から、テックに力を入れたいとずっと思ってきました。ネット通販さえなかった時代から、ずっとテクノロジーが人の生活を豊かにするし、選択肢を増やし続けられるということを信じてやってきたので、そこは特に変わらないですね。

 コロナの影響で、リテールは非常に淘汰されたとは感じています。ただ、淘汰されても、日本にはアメリカとほぼ同数の100万以上の店舗があります。今後、そこをオンラインにマージさせていくことが非常に重要だと思っています。また、オフラインの実店舗の役割も大きいと思います。いまだに実店舗では、売り場の方が仕入れも担当しているケースも多いですし、そうした売り場ではお客さんの顔色を見ながら、どういうものが売れているか目で理解して、データで整合性をとっています。実店舗だからこそ得られる知見も活かしつつ、テックの強化に力を入れて、利便性を上げていきたいですね。

 

――そうしたタイミングで、大森さんという人材が参画して、非常に心強いですね。今後もテック人材の強化を行なっていく予定ですか。

黒川 我々は、事業の責任者を固めてから人数を一気に増やすという手法をとっています。これまでもサイエンティストやエンジニアには非常に優秀なメンバーをそろえてきましたが、CTOが就任したことで今後ますます優秀な人材を増やしていきたいと考えています。タレントはそろったので、今後もっともっとアクセルが踏めるなと思っています。

 

アセットを共有できるミダス企業群であることのメリット

――イングリウッドはミダスキャピタルの投資先のひとつでもありますが、ミダス企業群としてのメリットについて、どのように考えておられますか。

黒川 ミダス企業群では、それぞれの知見などさまざまなアセットをお互いに共有しあっていますが、各社の状況をお互いに大体把握しているから、話が早いんです。劇的に早いスピードで企業目標に到達するために、さまざまな起業家やビジネスプロフェッショナルとビジョンを共有して一緒に動けることは、お互いにとって大きなメリットだと感じています。具体的には、ミダスキャピタルからの紹介を受けて、金融やコンサル、大手事業会社出身の人材が弊社に参画してくれたこと、そして外からの視点を得られたことが、とてもありがたかったですね。

 

――大森さんも、CTOとしてミダスキャピタルの投資先に入るメリットについてはどのように感じていますか?

大森 私は、各社のCTOの方々とやりとりをすることが多いのですが、大変いい座組だと思っています。「テック」と一言で表現しても実際にはかなり守備範囲が広いということもあり、どうしても経験や推測が追いつかない部分が出てくるんですよね。そうした時は、実際に経験したことがある他の会社のCTOの人に相談して、知見を共有してもらえるので、非常に心強いです。逆に、私が知っていることを教えることもありますし、お互いに助け合っているという感覚ですね。

 

小売業界で高いレベルのソリューションを提供し続けたい

――大森さんは、今後イングリウッドでどのようなことを実現したいですか。

大森 もちろん、まずは事業を新たに生み出し続けていくこと、それらを成功させることです。あわせて弊社は「商品を売る最強の集団であり続けること」というミッションを掲げています。ですから、「最強の人を育成する」とか「最強の人を輩出する」ということも実現したいことのひとつです。私自身が経営者として、人の人生を預からせていただいていると思っているので、その人たちが会社から出て行ったとしても、社会で活躍できるようにしたいと思っています。

 

――黒川さんは、これからどのようなことを実現していきたいですか。

黒川 やりたいことが多すぎて、語り尽くせないのですが、弊社は小売業界に特化し続けたいというのは、変わらない思いですね。ものを販売するうえで、商品を作る前のリサーチから製造、資材の提供、マーケティング、フルフィルメント、倉庫、コールセンター、CRM(顧客管理)まで、全てを弊社ではやっています。その中でもいまだに弱い部分があるのも事実ではあるので、そこを強化して、磨いていきたいと考えています。そして、小売におけるすべてのソリューションを、高いレベルで提供していきたいですね。

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