2024年2月、株式会社R-Square & Companyと株式会社トキハナツが経営統合し、新たに株式会社Xpotentialが誕生しました。今回は、「セールスイネーブルメント」(成果を起点とした営業組織開発・営業人材育成の仕組み)の普及に取り組む代表の山下貴宏氏に、経営統合後の成果や今後のビジョンについてお話をうかがいました。
◆プロフィール
株式会社Xpotential 代表取締役社長 兼 CEO
山下 貴宏(やました たかひろ)
法政大学卒業。日本ヒューレット・パッカード株式会社、株式会社船井総合研究所、マーサー・ジャパン株式会社、株式会社セールスフォース・ドットコム Sales Enablement本部長を経て、2019年株式会社R-Square & Companyを共同創業、代表取締役CEOに就任。株式会社トキハナツと経営統合後、現職。
経営統合の成果として、AIを活用したプロダクトが完成
――株式会社R-Square & Companyと株式会社トキハナツが経営統合してから約半年がたちましたが、現在の手応えはいかがでしょうか。
メンバーの一体感も高まり、非常に良い形で進展していると思います。昨年のR-Square & Company時代の売上を、Xpotentialは上半期で既に達成できました。下期にはさらに高い成長目標を掲げているので、ここからが本番というところです。
トキハナツと経営統合した主な狙いは、トキハナツが得意とするデータサイエンスやAIを「セールスイネーブルメント」領域に取り入れることだったのですが、この半年でAIを活用したプロダクトが完成し、今月ついにリリースを迎えました。これは、まさにトキハナツとの経営統合がなければ実現できなかった成果です。
――AIを活用したプロダクトとは、どのようなものなのでしょうか。
「AIセールスコーチ」というプロダクトで、AIを活用して営業の「スキルレベルの自動スコアリング」、「期待機会行動の促進」、「学習の自動化」をするものです。
具体的には、音声や商談の録画をAIに取り込ませ、その営業担当者のスキルレベルを自動で判定します。例えば「あなたが今行ったオンライン商談は、5点満点中3.78点でした」といった具体的なスコアが提供されます。
さらに、「ここが良かったポイントで、ここが改善点です。改善するためにはこのコンテンツを見ておいてください」といった育成のフィードバックを提供し、どの学習コンテンツを復習しておくべきかというレコメンデーションも行います。商談毎に、個別にコーチングを受けるような感覚です。
これまでも音声の記録や文字化するツールはありましたが、AIによるスキルレベルの判定と自動フィードバックの組み合わせはなかったアプローチです。私たちのプロダクトは、ハイパフォーマーの行動様式をスキルマップという独自のフレームワークで整理し、AIを通じて期待行動を促していくのが他社にはない大きな特徴です。スキルレベル判定も育成フィードバックも自社の勝ちパターンのデータに即して行われます。マネージャーの育成負荷が大きく軽減されると同時に営業メンバーのスキルアップを加速させますので、多くの企業にこのプロダクトの価値を届けていきたいと考えています。
経験に裏打ちされた視点で、「セールスイネーブルメント」の可能性やビジョンを解像度高く伝えていく
――プロダクトやサービスの根底には、山下さんご自身が法人営業や人材育成の現場で感じた課題や実体験、ノウハウが反映されているとうかがいました。
山下さんはどのような経緯で、「セールスイネーブルメント」という手法にたどり着いたのでしょうか。
私は2001年に日本ヒューレット・パッカード株式会社で法人営業としてキャリアをスタートしました。しかし、当時の私は売れる時もあれば売れない時もある営業で、成果が安定しない状況に悩んでいました。売れる時と売れない時の違いが分からず、再現性を持つことが難しかったのです。営業が自分に合っていないのではないかと感じ、より上流の仕事に携われる株式会社船井総合研究所に転職しました。
株式会社船井総合研究所では、営業力強化に悩む企業の原因を探り、その解決策を見つけることが私のミッションでした。そこで、多くの企業が営業の成果を上げられずに苦しんでいる現状を目の当たりにし、営業強化がいかに深い課題であるかを実感しました。
その後、マーサー・ジャパン株式会社に転職し、人事や人材育成の専門業務を担当するなかで、営業成果に直結する育成方法論の必要性を感じました。「トレーニングを行って終わり」となりがちな従来の育成方法では、持続的な効果が見られない状況に疑問を感じ、もっと効果的な育成の仕組みが必要だと思うようになったのです。
次に転職した株式会社セールスフォース・ドットコムでは、営業強化を目的とした「セールスプロダクティビティ」という部門に配属されました。この部門名が後に「セールスイネーブルメント」と変更され、これが私の「セールスイネーブルメント」という言葉との初めての出会いとなります。この部門での経験を通じて、営業の生産性を劇的に向上させるための手法を学びました。
――法人営業、営業コンサルティング、人材育成といったキャリアが、「セールスイネーブルメント」に結びついていったのですね。
「セールスイネーブルメント」の手法に対して確信を得て起業に至るまでには、どのような思いがあったのでしょうか。
「セールスイネーブルメント」を実践した結果、世界のセールスフォースの中で日本の営業生産性をトップに引き上げることができました。この手法が生産性を高めることを数値で証明し、その有効性に確信を持つことができたのです。すると、社外からもこの取り組みについて多くの問い合わせが寄せられるようになり、多くのニーズがあることも分かりました。
日本企業では、営業データの活用や成果に至る育成施策のプログラム構築を行う取り組みはまだ少ないのが現状です。そのため、社内での成功にとどまらず、より多くの日本企業にこの手法を広めたいと考え、起業を決意しました。長年培ってきた私の実体験を通じて、「セールスイネーブルメント」の可能性やビジョンを解像度高く伝えられることが、私の強みだと思っています。
「セールスイネーブルメント」の普及に向けた新たな取り組みと今後の展望
――「セールスイネーブルメント」の普及に向けて、今後どのような取り組みをしていくのでしょうか。
「セールスイネーブルメント」はまだ黎明期なので、まずは実際の成功事例を発信していくことが重要だと考えています。推進者をコミュニティ化したり、お客様の実績や事例を基にしたマーケティング活動を強化したりする予定です。さらに、他社との連携やパートナーシップを強化し、市場全体を広げていきたいと考えてます。
――「イネーブルメント」の手法を、営業以外の分野にも広げているとうかがいました。
はい。成果がわかりやすいため、まずは営業組織を対象に「イネーブルメント」を導入してきましたが、今後は営業以外の部門やプロセスにもこの手法を応用し、生産性の向上と成長の実現を目指したいと考えています。「イネーブルメント」はNPOやカスタマーサクセスなど、多くの分野に適用可能です。
実際に、ミダス財団が2024年4月に開始した特別養子縁組支援事業において、 弊社がNPO法人ミダス&ストークサポートの相談員育成を支援し、「イネーブルメント」の手法を活用しています。NPO法人に適用するのは日本初の試みでしたが、営業以外の分野でも効果を証明できた重要な事例となっています。
今後も「イネーブルメント」をさまざまな分野で広げ、人の成長とビジネスの成長を同時に実現できる世界を目指してまいります。