「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す」を目標とするSDGs(Sustainable Development Goals)。社会的責任を果たすためにSDGsを掲げる企業も増えています。そんな中、「社会にも、社員たちにもいい影響を与えたい」と考え、取り組んでいるのが株式会社イングリウッドです。同社がSDGsに力を入れ始めたきっかけ、そして目指している世界とはどのようなものなのでしょうか。SDGs推進のためのチームを率いる、堂田 隆貴取締役兼CFOに聞きました。
◆プロフィール
株式会社イングリウッド 取締役兼CFO
堂田 隆貴(どうだ・たかき)氏
2005年にPwCグループ入社、公認会計士として会計監査やM&Aアドバイザリー業務等に従事し、複数の案件にプロジェクトマネージャーとして関与。総合商社への出向期間中は海外インフラ業への事業投資を実行。2018年に株式会社イングリウッドへ取締役兼CFOとして参画し、コーポレート部門の立ち上げから資金調達、M&Aの推進等を行う。
「SDGsに取り組みたい」という社員が、続々と手を挙げてくれた
――イングリウッドはBtoBからBtoCまで多岐にわたって事業を展開しています。ここ数年で採用を強化して組織を拡大。さらに2022年3月にはSDGs推進体制を発表するなど、社会に対しての発信にも力を入れています。「SDGs宣言」に至るまでに、どんな経緯があったのでしょうか。
「イングリウッドには何が足りないのか」を考えたことがきっかけです。2021年の7月にマネージャー以上のメンバーが集まり、事業戦略を話す場がありました。その際、「事業は順調に拡大しているが、イングリウッドの認知度はまだあまり高くないのではないか」という意見が出てきました。社名を押し出してブランディングしていないこと、またイングリウッドの名前でプロダクトも売り出しているわけではないからです。コーポレートブランディングを築き上げるという観点から何が必要かを考えたとき、SDGsが浮かんできました。
もちろん、それだけが理由ではありません。今や、SDGsはメディアでも当たり前のように聞く言葉。将来的にIPOを目指す中で、当たり前のことだという認識を持っていないといけません。全社をあげて取り組むことが重要だと考え、私が責任者となって動き始めたのが2021年の8月。必要に応じて外部のコンサルタントにも助言をもらいながら、半年後の2022年3月に「SDGsに積極的に取り組む企業」として、自社公式サイトで宣言しました。
――2021年6月に立ち上げた冷凍総菜の宅配サービス「三ツ星ファーム」は、規格外野菜の利用やサトウキビの搾りかすなどから作られたパルプモールド容器を採用するなど、環境に配慮しているのも特徴的です。このサービスとSDGs宣言との関係は?
三ツ星ファームがスタートしたのは、SDGs宣言よりも前。企画当初から担当者は、「環境への負荷を減らしたい」という強い思いを持っていました。サービスが大きくなればなるほど、社会にもインパクトを与えられるのではなかと考えています。
――SDGsを推進すると公言する前から、社内には環境問題を意識するようなカルチャーが根付いていたのでしょうか。
もともとカルチャーがあったというより、今は個々の思いがまとまって形になってきている時期だと思います。当社はここ数年で採用人数を拡大しています。1年前は130人だった社員が、今は約200人まで増えました。毎月のように新入社員が入社し、それぞれが異なるバックグラウンドを持っています。
そんな中、私ともう一人の社員とでSDGsを推進する委員会を立ち上げ、参加したい人を任意で募ったところ、何人もの社員が手をあげてくれたんです。通常業務に加えて委員会の活動が増えるにもかかわらず、関心を持ってくれる人がこれだけいる。改めて取り組む意義を感じました。
SDGs委員会の主要メンバーである、経営管理室 前村知夏(まえむら・ちか)氏(写真左)、堂田氏(中央)、コーポレート統括本部 法務部 ゼネラルマネージャー 岩田和晃(いわた・かずあき)氏(右)
全社を上げてSDGsに取り組む姿勢に、社員からも高評価
――SDGs推進体制として、2015年に国連によって制定された17の持続可能な開発目標を「社会」「環境」「人」の大きく3つに分け、それぞれ課題を設定しています。
もちろん、ステークホルダーに周知していくのが一番の目的です。しかし、十数人いる委員会のメンバー全員が「まず最初に、社員に理解してもらいたい」という意見で一致しました。そこで「社会」「環境」「人」の3つに分けることで、社内にも浸透しやすいのではないかと考えました。
「社会」の課題として感じているのは、テクノロジーによる経済発展やECの拡大による地域格差の解消など。ITを楽しむ機会を様々な世代に提供して地域のコミュニケーション活性化に寄与したいと考え、現在は本社のある渋谷エリアを中心に、地域のコミュニティと連携しています。2022年6月には渋谷区SDGs協会と共同で、三ツ星ファームのお弁当を子ども食堂に提供しました。今後、三ツ星ファームでは地方自治体と組んで、あまり一般には知られていない地域の特産品や名産品などを積極的に採用していきたいとも考えています。
また、イングリウッドは自らも小売を営んでいる企業なので、モノがあってこその企業とも言えます。物流で二酸化炭素は排出され、資源も使います。環境への悪影響をいかに抑えるかを考えなければなりません。そこで「環境」課題として、ロジスティクスの適正化によるCO2の削減を目指します。CO2削減を積極的に推進している宅配業者を採用する、再配達を減らすために宅配ボックスの販売を推進するなど、具体的に考えて取り組む予定です。廃棄物削減のために、需要予測して、余分にモノをつくらないためのプロダクトも考えています。
最後に、「人」。これこそが、今イングリウッドが本気で取り組みたい課題かもしれません。社会全体で女性の管理職が少ないと言われていますが、当社もそれに当てはまります。これを早急に改善していきたいです。
――現在、イングリウッドの女性管理職の割合はどの程度なのでしょうか。
全体の11%です。一方で女性社員は45%います。そのため、若手社員からは「ロールモデルがいない」という声も上がっていました。SDGs宣言にあたり、「何年までに何%女性管理職を増やす」と明言することも考えましたが、性別を問わず、活躍している人が適正に評価されることが最も重要。その上で女性の管理職比率が上がってくるようにするべきではないかという結論に至りました。
――性別ではなく、平等に機会を与えるということですね。
そのために人事制度も見直しました。これからは数字を出した人だけではなく、チームのメンバーを育成することも評価指標とします。社員の意見もヒアリングしてどんどん人事制度にも反映していきたいと思っています。また、女性社員に現在どんな悩みを抱えているのかをヒアリングする機会を設け、安心して働ける職場を目指そうという話も出ています。
――社員のみなさんは、SDGs宣言をどのように受け止めていますか?
いきなりSDGsと言い出したことに驚いた社員もいたかもしれません。社員への周知のため、「SDGs通信」として委員会で話し合っていることなどをまとめてSlackで定期的に配信しました。その結果、だんだんと「何かやっているな」から「具体的に何をやっているか」が浸透してきたように感じます。
株式会社なので売上を出すのは大事なことです。ただ、SDGsに真剣に取り組むと宣言して以降、社会に貢献する企業であることを社員にも評価してもらえるようになったと感じます。今は小学校からSDGsを学ぶ時代。当社は平均年齢30歳で20代の社員が半数を占めているので、若手社員にとっては良い影響が大きかったようです。
まだまだやれることを模索している段階ではありますが、一つ一つの課題に向き合うことで、事業にももっとポジティブになれると考えています。その結果、社会に対して、さらにいい影響をもたらせるような企業に成長していきたいです。
――ありがとうございました。