「セオリーがないからこそ、悩み尽くす」バイセル岩田会長、GENDA申社長が考える「ブランドインテグレーションの正解」

成長を図る上でM&Aに積極的に取り組む企業が増える中、グループ入りしたブランドをどう取り扱うべきか、悩む経営者も少なくないのではないでしょうか。リユース業界のロールアップを軸に、出張買取や店舗買取のさまざまなブランドのM&Aを行っている株式会社BuySell Technologies(以下、バイセル)の岩田匡平氏、そしてM&Aを成長戦略として掲げるエンターテイメント企業株式会社GENDAの申真衣氏に話を聞きました。それぞれが考える「ブランドインテグレーションの在り方」とは、一体どんなことでしょうか。

◆プロフィール

株式会社BuySell Technologies 代表取締役会長
岩田 匡平(いわた きょうへい)

東京大学工学部システム創成学科卒。株式会社博報堂を経てマーケティングコンサルティング等を提供するOWL株式会社(現・株式会社AViC)を2014年に創業し代表取締役就任。ベンチャー企業を中心とした急成長企業のマーケティング活動を幅広く支援。2016年6月より当社のコンサルティングを開始し、2016年10月に取締役として当社に参画。2017年9月に当社代表取締役社長兼CEO、2024年4月に代表取締役会長へ就任。

株式会社 GENDA 代表取締役社長
申 真衣(しん まい)

東京大学経済学部経済学科卒。2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。金融法人営業部で金融機関向け債券営業に従事。その後、2010年より金融商品開発部にて、金利・為替系デリバティブの商品開発・提案業務、グローバルな金融規制にかかる助言業務等幅広い業務に従事。2016年4月、金融商品開発部 部長、2017年11月、マネージングディレクターに就任。2018年8月、株式会社GENDA取締役就任。2019年6月より現職。

ブランドインテグレーションに正解はない
「どの視点」を重視するかで、判断は異なる

――バイセル、GENDAともに、M&Aに力を入れています。グループ内でブランドを統合しているケースもあれば、しないケースもあるかと思いますが、どのような基準で判断しているのでしょうか。

岩田:「絶対にこうする」と決めているわけではないのですが、現時点でM&A後にブランド名を変更した例は一つもありません。バイセルグループの現有ビジネスに似ているように見えて、各ブランドごとに狙いは異なります。そのため、統一することでそのブランド独自のカラーが失われることも多いのではないかと考え、慎重に判断しています。

例えば、総合買取サロンやB to Bオークションを展開するタイムレスに関しては、今後も変えないほうがいいだろうと考えています。理由は大きく2つ。タイムレスオークションは非常に認知度が高く、業界に深く根差しています。それほど愛されているブランドを、仮に「バイセルオークション」に変更してしまったら、その瞬間に心が離れてしまう人もいるかもしれません。さらに総合買取サロンの店舗は全て百貨店内に出店しており、百貨店側も「タイムレス」として認知しています。このブランドに関しては、業界、パートナー、百貨店からのロイヤリティを重視している形です。

:GENDAも同様にケースごとに判断していますが、常に顧客視点を最優先しています。2022年にM&Aを行ったスガイディノスは、北海道では名の知れたエンターテイメント企業でした。「初めてのデートはスガイディノスのゲームセンターだった」という思い出話を、北海道出身の方から聞いたこともあります。そこで、お客様の情緒的なつながりとして、当初はブランド名の変更は考えていませんでした。

――2023年12月に、スガイディノスの全店舗をGiGOブランドに統一されました。約1年後の変更を決断したきっかけはどんなことだったのでしょうか。

:ブランド名を変更したのは、北海道に新規の出店ができるようになった時期です。スガイディノスを引き受けた当初は、経営の立て直しのために不採算店の整理を行う必要がありました。それを経てしばらくして、改めて北海道で店舗展開していけると確信した際に、統一しました。とはいえ、顧客視点で考えると、単に看板を変えるだけではだめ。「GiGOになることで、目に見えて良くなった」と実感してもらう必要があると考えました。そこで、当社が北海道で取組めていなかったコラボカフェを出店することにしました。

スガイディノスに限った話ではないのですが、アミューズメント事業としてブランドを統一することで、お客様とのコミュニケーションを取りやすくなるという利点が挙げられます。当社は集客の大きなレバーとして「GiGO限定景品」を取り扱っているのですが、一時期は「GiGO限定」と書きながら「スガイ、宝島の店舗にもあります」と筐体に書き添えるという状況がありました。お客様からも「どの店舗で取り扱っているのか」という問い合わせがあり、不便を感じさせているのではないかと気づきました。

――「ほしい景品がGiGOの看板の店にある」というのは、利用者側にとっては確かにシンプルでわかりやすいです。

:今後もアミューズメント施設をM&Aするたびに看板を「GiGO」に変える、と決めることはしませんが、やはり顧客目線に立つと、統一したほうがいいのかもしれないと考えています。

GiGOへのブランド名統一で、従業員の目線が上がった

――SEGAGiGOへのブランド変更は、かなり早い段階で行われていましたが、こちらのケースはどのような判断だったのでしょうか。

:「GENDAの一員として世界一のエンタメ企業を目指す」という主体性を持ってもらうためにも、従業員の意識の転換は必須だと考えました。

岩田:GiGOに変わったことは、外部から見てもかなり大きな出来事だったと思います。これに関して、もともといたメンバーから反発はなかったのでしょうか。

:「SEGA」が好きで入社したという従業員も多いのですが、GENDAへのグループインで「(ブランド変更は)心機一転になる」と前向きに受け止めてくれた人が多かったと実感しています。新ブランド名が「GiGO」に決定するまでにもさまざまな議論がありましたが、最終的にはセガ エンタテインメントで使っていた「GiGO」を選びました。なんらストーリーのない新しい屋号にするよりも、今までの歴史や文化を感じ、馴染みのある名前にしたいという気持ちがあったからです。

岩田:なるほど。それなら受け入れやすいかもしれない。

:そこは大きかったですね。加えて、ただ単に新しいブランド名にするというだけでは、その名前が好きか嫌いかという議論になってしまいます。「世界一のエンタメ企業を目指す」というビジョンを伝え続けたことで、意思統一ができたと感じています。「世界中の人々の人生をより楽しく」というAspiration(大志)と合わせて掲げることで従業員の目線が上がり、「自分たちの仕事に改めて誇りを持てた」という話も聞きました。

看板だけ変えることのインパクトはない
既存ブランドの認知度を生かすのも一つの手

――ブランド名を統一することによって、一般認知が広がる、シェアが大きいことが目に見えてわかるという広告的効果も生まれるのではないかと考えますが、その点はどう捉えていますか。

:アミューズメント施設は立地のビジネス。同じGiGOでも、都市部にある店舗とショッピングセンター内にある店舗のMDは全く異なります。「行きつけのゲームセンターの名前が変わったから行きたくない」という心理は生まれにくい。つまり、いい意味でも悪い意味でも、看板だけを変えるインパクトがないのです。もしかすると、インターネット上のビジネスでは名前が変わって顧客との関係が途切れてしまうということはあるのかもしれませんが……バイセルが扱う領域ではいかがでしょうか。

岩田:アミューズメント施設が行きつけのお店として日常に溶け込んでいるものだとしたら、出張買取は多くの人にとって一生に数回のこと。片付けたいと思っている時に投函されるチラシが大事で、急なニーズで申し込む人も多いです。その際に、「この業者に頼んで問題がないか」程度のリサーチをする人はいると思いますが、初めての依頼でブランド名にこだわりを持って選ぶケースはあまり多くはないと考えています。

2024年の8月に「買取 福ちゃん」を運営するレクストホールディングスに対し、M&Aを行いました。オペレーションの統合はすでに始めていて、ロジを共有する、管理画面を統一するなど、段階を踏んでいるところです。今まで取得した業態よりもかなり近しいので、ブランド名を統一するのかと聞かれることも多いのですが、現時点ではまだ決めていません。

出張買取の領域において、顧客との接触期間はかなり短いので、「広く浅く」あることの意義も大きい。バイセル、福ちゃんともにの一般での認知度はそれぞれ比較的高い。そうした理由で、統一して福ちゃんの看板をなくしてしまうのは、もったいないという気持ちもあります。

――「ブランド名の統一について質問される」とのことですが、それは主に投資家からですか?

岩田:そうですね。「わかば」や「買取 むすび」などの店舗買取事業にM&Aを行った際はそのような質問はなかったのですが、買取 福ちゃんに関しては「いつ統一するのか、そもそもするのか」と聞かれます。ただ、ブランド名を統合すると言っても、消費者、業界、取引先、従業員からと、さまざまなアングルがあるので、すぐには答えが出ません。

:正解はないですよね。ただ、2023年の夏にGENDAが上場するまでの間に、投資家に対して新ブランド名を今後どうしていくのかを明確にすることが必須だと考えてもいました。ある程度、上場までにブランドチェンジができていて、変わったとしても売上に大きなインパクトがないというサンプルを取らなければならないと思っていたので。

M&Aを行うと、投資家の皆さんから「ブランドを統一するのか」と聞かれることは多いです。でも、「統一したほうがいいですか」と聞くと、特に皆さん絶対にこうしてほしいという意見はない。だからこそ、その都度事例によって真剣に考え抜いた結果、さまざまな形になっています。ブランドの統一に関しては、「数字ではこうだから」「合理的だからこうする」と判断することはありません。

岩田:ところで、GENDAはアミューズメント事業以外にも積極的にM&Aを行っていますが、そこにはGENDAやGiGOの冠をつけようと考えたことはないのですか。

:ロゴを見やすく変更するなどの調整は行っていますが、基本的には
手を加えていません。2023年にはレモネード専門店「LEMONADE by Lemonica」がグループインしましたが、「GENDAレモネード」に変えても、誰にも刺さりません。大切なのは、お客様、フランチャイズオーナー、出店するショッピングモールの人にとってどう見えるか。GENDAのグループ企業であるということまで認知してもらう必要はないと思っています。

岩田:話せば話すほど、アングルによって切り口が変わる、極めて難しい意思決定の一つ。ブランド名を統一するのかそのまま行くのか、セオリーがないからこそ、悩み抜くしかない。各社が議論と検討をし尽くして決定していく問題なのでしょう。

――ありがとうございました。

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