Developers Summit 2022 イベントレポート「エンジニアの生き方 エンジニアキャリアと組織のつくり方、これまでの10年と今後の10年」

2022年2月、日本最大級のソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers Summit 2022」がオンラインにて開催されました。カンファレンス2日目となる2月18日、グリー株式会社取締役 上級執行役員 最高技術責任者藤本真樹氏、ミダスキャピタル投資先の株式会社BuySell Technologies取締役 CTO今村雅幸氏、モデレーターに同じくミダスキャピタル投資先の株式会社GENDA(ジェンダ)CTO梶原大輔氏を迎え、「エンジニアの生き方 エンジニアキャリアと組織のつくり方、これまでの10年と今後の10年」についてパネルディスカッションを行いました。

ミダスキャピタルでは、傑出した才能と技術を集めることをミッションに、事業やファイナンスのエキスパートだけでなく、優秀なテクノロジー人材とテクノロジーによって成長ポテンシャルが期待される投資先企業とのマッチングに注力しています。そんな取り組みの一環として協賛した本セッションの様子をご紹介します。

 

■登壇者プロフィール

グリー株式会社 取締役上級執行役員最高技術責任者
藤本真樹氏

上智大学文学部卒。2001年、株式会社アストラザスタジオ入社。03年、有限会社テューンビズ入社。PHP等のオープンソースプロジェクトに参画し、オープンソースソフトウェアシステムのコンサルティングなどを担当。05年、グリー株式会社取締役に就任。21年9月、デジタル庁のCTOに就任。

 

株式会社BuySell Technologies 取締役 CTO
今村雅幸氏

2006年ヤフー株式会社に入社。Yahoo! FASHIONやX BRANDなどの新規事業開発に従事。2009年に株式会社VASILYを創業し、取締役CTOに就任。200万人が利用するファッションアプリ「IQON(アイコン)」のプロダクト開発やエンジニアリング組織をリード。2017年にVASILYをスタートトゥデイ(現ZOZO)に売却。会社統合とともに2018年4月、ZOZOテクノロジーズの執行役員に就任。CTOとしてZOZOのプロダクト開発やエンジニア採用・教育・評価などのエンジニアリング組織マネジメント、情報システム、セキュリティリスクマネジメントなど、幅広くDXを推進。2021年3月に取締役CTO就任。

 

<ファシリテーター>

株式会社GENDA CTO
梶原大輔氏

2006年ヤフー株式会社入社。2007年グリー株式会社入社。2014年同社執行役員に就任し、開発本部長、事業本部長を歴任。2018年株式会社エブリー入社。CTOに就任。2021年10月株式会社GENDA入社。CTOに就任。株式会社GENDA SEGAEntertainment において、執行役員CTO兼IT戦略本部 本部長を兼任。

 

エンジニアの地位が確立され、業界が成熟した10年

 

梶原:まずは「10年を振り返ってみて」というテーマでキャリア・組織についての変化についてお聞かせください。

藤本:まず10年前にはそもそも、エンジニアリングマネージャーや VPoE(Vice President of Engineering)といった言葉はそんなに使われていなかったと思います。少なくとも日本では。

今村:PM(Product Manager)はありましたけど、PdM(Product Manager)もなかったですね。そもそも開発はWEBが中心でアプリエンジニアなどもありませんでした。アプリが出てきたことにより、業務が細分化されていった印象があります。

藤本:それはありますねー。あとはシンプルに給与相場が上がった。ソフトウェアエンジニアの位置づけが変化していき、義務教育でのプログラミングが必修化されたりもしました。エンジニアの希少価値、需要価値も上がっていますよね。

今村:憧れの職業に少しずつ入るようになってきました。子どもたちが考える将来の職業の一つの選択肢に入ってきているというのは、かなり大きな展開かなと思いますね。

梶原:今村さんの夢ですもんね。

今村:エンジニアを憧れの職業へ!

藤本:そういう意味では、「進化」というより「成熟」という言葉のほうが適しているのかもしれないですね。エンジニアの役割や定義が少しずつ明確化されて、コンセンサスが取れるようになってきた。キャリアという意味でも組織という意味でも業界全体が成熟してきたことによって、待遇面や地位、人気が高まってきているんだと思います。

梶原:あとは組織論やキャリア論などがとても体系立てられてきて、ノウハウが共有されるようになってきたことも変化ですね。

今村:ノウハウを共有できる土壌ができてきたというのは感じますね。10年前は完全に手探りだったと思うので。

藤本:イノベーティブに変化した、という意味でいうと何ですかねー。

今村:働き方ですかね。

梶原:リモートワークもそうですし、あと副業なども増えてきました。

藤本:副業するためのプラットフォームが確立されてきたというのもありますね。

今村:キャリアの積み方みたいなものもずいぶん変わりましたね。副業をして、そこでスキルを身につけてくることを推奨される、といった文化は10年前にはなかった気がします。

藤本:キャリアという観点でいえば、ソフトウェアエンジニアの働く場所が、以前はいわゆるインターネット企業、SIerといったようなところが主戦場だったけれど、今日の二人のように、ソフトウェアがメイン事業ではない会社でソフトウェアエンジニアが働くということが増えたよね。働くフィールドが広がった。最近だとDXもそうだし、どこでも、どの会社でもエンジニアが求められるようになったよね。

今村:そうですね。IT企業だけではなく、全然違うところにもソフトウェアエンジニアが求められるようになってきた、というのはすごく大きな変化ですね。システムを内製できる組織を作っていこうという大きな流れの中で、そういうキャリアを選ぶ、ということが増えてきた。

藤本:そういう意味でいうと、梶原さんはその潮流のど真ん中を行っているキャリアですね。

梶原:そうですね。私ももともとインターネットプロダクトがあって事業を作るという企業から、主軸となる事業をグロースさせるためにテクノロジーやソフトウェアどう機能させていくか、といった仕事に今携わっているので、そこはやはり大きな変化だと思います。

 

エンジニアの働きがいにもSDGsが求められる、新しい10年へ

 

梶原:ここまで過去10年の進化や変化についてお話を伺ってきました。

ここからは、「これからの10年で起きる進化」についてお話を伺っていきたいと思います。例えばキャリアという意味では、アプリ開発の面での分業化、それに伴う組織のデザインの在り方も変わってきました。僕らの時代のエンジニアはもともとWEB開発、フロントエンド、バックエンドなどについて全般的に携わりながら専業化していく方が多かったように思いますが、今はあるジャンルの専業担当者として入社するケースが増えています。その中で、今後のキャリアをどのように積み上げていくかといった悩みがあると思いますが、お二人はこのあたりをどのようにお考えでしょうか?

今村:確かに、ある程度の規模の組織になれば、業務は細かく分業化されていることが多いように思います。サーバーやWEBアプリケーションを動かすためにはさまざまな知識が必要ですが、そこに触れないまま専業化されていくというのは少しもったいないように感じますね。採用を担当していると、新卒学生の多くはフルスタックでやりたいと言います。フロントからサーバー、インフラまで幅広く扱えるようなチームの組み方やプロダクトづくりを目指したほうがさまざまな能力開発にも役立つのでは、とも思います。

藤本:一つひとつの領域が奥深くなってきた結果、人間が一生で学べるキャパシティをとっくに超えてしまっているのではないかと思うときはあります。全部を片手間に学んでも、一生キャッチアップできないのではないか、と。今、「柔軟にいろいろ任せる組織づくり」と言いましたが、それは例えばどんな組織のイメージですか?

今村:うちの場合は職種で切らずに、プロダクトごとにチームを切るという 方法を採っています。1チーム6人程度の組織にして、今週はフロント、今週はサーバー、という形で幅広く担当していきます。

藤本:粒度を小さくしてそのチーム単位ですべてを担当できる組織にしたほうがいいのでは、という話か。それがうまく切れればいいよね。あとはチームのインタラクションをどうするか、とかですかね。 

今村:結局サービスの規模感によっては職種を切れば切るほどスピードが落ちる。あるいは、人材の流動性があるような組織の場合は、配置転換なども進みづらくなるのではないかと思っていました。先ほどDXの話がありましたが、向こう10年続いていくDXについて考えたとき、エンジニアは、組織の中に入っていって、既存のオペレーションを把握し、解決策を探すことになる。そこにはコミュニケーション能力で、課題を課題として認識する力が今まで以上に必要になってくると思うんですよね。IT業界から違う業界に移った実感から強くそう思うんですが、この能力は結局身につけていかないといけないのでは、と。

 藤本:僕らの仕事は基本的には問題解決をする担当だもんねー。

梶原:藤本さんは、会社と従業員の関係がフラットになってきた、というようなお話をされていたことがありましたが、そのあたりはいかがですか?

 藤本:そうだね。副業などもそうだし、特にソフトウェアエンジニアは今、需要のほうが圧倒的に多い。会社とフェアな関係が築けていないと感じるなら会社を移ることも視野に入れられるし。お互いプロとしてそういう会話ができるというのはすごくフェアでいい関係だなと個人的には思います。

 今村:従業員との関係がフラットになってきたことで、企業としてはエンジニアをどうアトラクトしていくか、エンジニアがついてきてもらえる企業づくりをどう行うかという難易度は上がっていくでしょうね。

 藤本:エンジニアをアトラクトしていく観点でいえば、重要なことは何だと思います?

 今村:間違いなく一つあるなと感じているのは、SDGsですよ。

 藤本:そうなんだ!このセッションでSDGsって言葉を聞くとは思わなかった(笑)。 

今村:僕も新卒採用を担当していて非常に驚いたことなんですが、今どきの新卒学生のほとんどはSDGsへの意識が高いです。エンジニアという職業自体がある程度浸透してきた中で、エンジニアになることがゴールではなく、エンジニアとして何を作れるか、どう貢献していけるのかという意識を強く持っていると感じますね。

 藤本:社会貢献をみんなでやっていかないと、というのは肌感としては確かに強まった気はします。

 今村:社会貢献できるような事業や仕事をやっているような会社を選びたい、エンジニアという仕事を通して社会貢献に繋がるようなことをやっていきたいと考える人はけっこういます。僕も転職理由の一つに入ってますし、ここが進んでくると、おそらく中途のエンジニアの中でも大きな要素を占めるようになるのではないかと思います。どこの会社も待遇が上がってきていると思うので、最後にはやはりいかにやりがいがあるか、といったところにつながっていくだろうと思っています。

 藤本:梶原さんの未来予測はどんな感じですか?

 梶原:そうですね。分業化は進んでいくのでしょうし、CTOだけが何か決めるのではなく、それぞれのセクションのオーナーが意思決定していくんだろうな、と。さっき今村さんがおっしゃっていたような「課題を見つける力」というのは重要だなと思います。僕らが当たり前だと感じていることの中に実は全然当たり前ではないというギャップがあって、そこに改善のヒントが見つかるということもあるので。エンジニアだけの組織よりも、事業会社の人たちの中にどうエンジニアを組み込んでいくかの設計も必要になってくるのかな、と。

 藤本:逆も然りですしね。お互いに学ばなければいいパフォーマンスを出せないなという危機感というか、そういうマインドもちゃんと持たなきゃいけないなと思うねー。

梶原:ありがとうございます。あっという間の30分でしたが、最後にお二人に一言ずついただけますでしょうか。 

今村:改めてこの10年を振り返ると、エンジニアという職業自体の複雑性もそうですし、難しさも増してきました。そこでいろんなノウハウを共有する必要性が出てきて、洗練されてきたというのがこの10年。そして、向こう10年もまた難しいことが続くんだろうなと思っています。キャリアの積み方には正解はないと思っているので、いろいろな選択肢の中で、ご自身で選ばれた道を楽しんで進んでいただけたら、と思います。僕自身もまた次の10年、自分の選んだ道を楽しみながらやっていきたいなと思っています。

 藤本:お金をもらってパフォーマンスを出すという意味では間違いなくプロフェッショナルとして働いているわけなので、そこにプライドを持ってやっていく。その価値にずれがあると感じるなら違う環境を選べばいいし、そういう形でお互い成熟して業界全体のレベルが上がっていけばいいなと思います。そうすることで10年後もまた成長した10年だったと言えると思うので、そのように頑張っていければと思います。

 

梶原:本日は誠にありがとうございました!

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