2023年3月3日、スタートアップでのキャリアに挑戦する女性のためのコミュニティ“Women in Startups” が主催するキャリアセミナー「In Her Shoes」第2回が開催されました。今回は、Yohana株式会社と共催し「働き方とくらしの未来をデザインする」をテーマに、ゲストのヨーキー松岡氏とファシリテーター申真衣氏との対談形式で行われました。その内容を前後編に分けて紹介します。後編の今回は「仕事と家庭の両立」について。ヨーキーさん、申さん、それぞれの“奮闘”とは?
◆プロフィール
ヨーキー松岡氏(ゲスト)
Yohana株式会社/Yohana LLC 創業者 兼 CEO。パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員。東京生まれ。UC Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)を卒業後、MIT(マサチューセッツ工科大学)博⼠課程修了。博士(理学)。ハーバード大学の博士研究員を経て、カーネギーメロン大学助教授、ワシントン大学准教授として、人体・脳のリハビリを促すロボット機器の開発に携わる。2009年末、共同創業者としてGoogle Xを設立。ガレージベンチャーだったNestに参画し、2014年、Googleに売却。その後シリコンバレーにおける要職を歴任。2019年10月、パナソニックへ入社。2022年4月、パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員、くらしソリューション事業本部長、Yohana株式会社、Yohana LLC CEOに就任。
申 真衣氏(ファシリテーター)
東京大学経済学部経済学科卒業。2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。金融法人営業部で金融機関向け債券営業に従事。その後、2010年より金融商品開発部にて、金利・為替系デリバティブの商品開発・提案業務、グローバルな金融規制にかかる助言業務等幅広い業務に従事。2016年4月、金融商品開発部 部長、2018年1月、マネージングディレクターに就任(当時最年少)。2018年5月、株式会社GENDAを共同創業。2019年6月より現職。
アウトソーシングの積極的な活用で「仕事と家庭の両立」が成り立つ
申真衣氏(以下、申) ヨーキーさんといえば、お子さまが4人いらっしゃいます。私は2人でも大変なのですが、4人となると想像もつきません。子育てと仕事の両立を見事に成功させてきたコツなど伝授いただけますか?
ヨーキー松岡氏(以下、松岡) あの、毎日が本当に大変です(笑)。だから最初に言ってしまうと、一番重要なのは「まぁ、これでいいか」と思うことかな。両立にパーフェクトは求めないで。
私、1回目の出産は双子だったんですね。当時は私も夫も教授でしたし、あの時は本当に仕事と子育ては両立できないと途方に暮れました。
でも、昔から子供は欲しかったし、キャリアも当然、諦めたくなかった。両方、絶対に捨てられない、どうしようと。そこで悩みに悩んだ末、逆に捨てられるものはないかなと考えたら、見つかったんですね(笑)。
それは、「キャリアも子育ても捨てたくない、でもトイレを綺麗にするのはやめてもいいかな?」ということ。それまでは、食事作りも掃除も家事全般を自分でやっていたのですが、そう気付いた時に初めて家事をアウトソーシングしてみました。
でも最初はやはり勇気が必要でしたよ。お掃除を頼んだのに、汚い家に人を呼ぶことに抵抗があったので、お掃除の人が来る前に自分で掃除をしたり。とにかく繰り返し利用することで、自分自身も家族もアウトソーシングに慣れていった感じです。
自分が社会に貢献するために必要なこと、たとえば「人の役に立つ仕事」や「やりたいこと」は自分の中にキープすべきです。だけど、この人生でやらなくてもいいんじゃない?と思ったことはどんどんアウトソーシングしていく練習をすることは大事。
積極的にアウトソーシングを活用していくことで、子育てをしながらでも色々なことに挑戦できる人生になったと思います。
ヨーキー松岡氏のパッション溢れるトークに参加者も引き込まれていました
夫婦円満の秘訣は「必要な時にサポートし合う程よい距離感」
ー先ほどの「社会に貢献できる仕事」というお話から、夫婦でそれを実現するための秘訣などがあれば教えてほしいという質問が寄せられました。
松岡 私たち夫婦は、二人ともB型なんですね。つまり、お互い自分勝手なところがある(笑)。だから喧嘩もするし、イライラする事もたくさんあります。私は質問をしたらすぐに答えがほしい性格なのだけど、彼はアイディアを出すのに時間がかかるんですね。でも時間はかかるけど、後日とても良い返事が返ってくる。
仕事に対しても、私はミッションに向かって突き進んで行くタイプですが、彼はひたすらソフトウェアのコーディングをしているのが大好きな人。全然違うでしょう。なので、常に夫婦それぞれがやりたい事で忙しいし、べったりした関係かと言われたらそうじゃないかもしれない。
ただ、どちらかが困難に直面している時に「大丈夫?側にいるよ」と声をかけ、支え合えているとは思います。やりたい事が全く違っても、それが相手のやりたい事なら何でも支えてあげるし、それに対してジャッジメントはしないように気をつけています。
申 我が家は、例えると夫婦でスワンボートを漕いでいる感じなんです。スワンボートって一人だけが漕いでいるとクルクル回ってしまうけれど、二人で漕ぐから前に進む。
私たちは、お互いの仕事の状況をいつでも詳細に話し合っています。お互いのキャリアがお互いの人生にとって非常に大事というか。
たとえば、夫が海外出張へ行くとなると、「ワンオペになるし困るな」と思うこともあるんですけど、でもそれが彼のキャリアにとって大事なんだなというのは自然に分かる関係ではあります。お互いに譲り合いながら、なんとかやれている夫婦なのかなと思いますね。
参加者と同世代の申真衣氏、親身なアドバイスが共感を呼んでいました
ロールモデルを見つけることにこだわらず色々な人の考えを知る
ー会場からは「仕事と家庭を両立するのに周りにロールモデルが少ない、お二人のロールモデルを教えてほしい」という質問も挙がりました。
申 私が新卒で勤めた会社はアメリカの外資系企業だったので、周囲は子供を出産後も自然に復帰するという環境でした。そういう点では特にロールモデルを意識する必要はなく恵まれていたと思います。
ロールモデルって自分にハマる人を見つけ始めると意外と見つからないものだと感じていて。だから女性に限らず色々な人の良いところを少しずつ、つまみ食いするイメージで仮想のロールモデルを作ると良いのではないでしょうか。
松岡 私も女性のロールモデルはいなかったし、欲しいとも思いませんでした。というのも当時、自分の周りに全く参考になる人がいなかったのです。なのでロールモデルとは違うかもしれませんが、自分の人生において非常に勉強になった二人を挙げます。
一人はテニスプレーヤーのアンドレ・アガシ。彼は他の人とは違う髪型や服装を好み、テニスカルチャーを変えていったユニークな人です。ユニークさが非常に魅力的なんですね。その姿を見て、「人とは違うユニークさを持つ」ということは、何かをチャレンジする時の原動力になるのだなと影響を受けました。
もう一人は、ブレネー・ブラウン(注・ヒューストン大学の研究者。恥や傷つく心に関する研究の第一人者として知られる)。TEDトークで自分が失敗した話をたくさんする人で、失敗した後にどうやって立ち上がって頑張るかを教えてもらいました。失敗というのがちゃんと成功に繋がるのだということを学ばせてくれた人です。
自分を大切にするために「Meリスト」を作ってみる
申 最後に今、取り組まれていること、これから挑戦したいことについて教えてください。
松岡 私が今、取り組んでいること、そして恐らくまだ皆さんは取り組んだことのないコンセプトを一つご紹介したいと思います。私は「Meリスト」というものに取り組んでいるんですね。Meは自分のMeです。
私自身、ずっと家族を優先し、自分の事は必ず最後にやってきました。自分を犠牲にするのが当たり前だと思ってきたんです。でもある時期、仕事も上手くいかないし家族にもイライラしてしまうという悪循環が重なって。その時に自分のコーチから「Meリストを作ったことがある?」と聞かれたのがMeリストを知ることになったきっかけです。
具体的に紹介すると、“自分のためにやること”をTo-doリストのように書き出してみてください。睡眠時間、スポーツ、趣味、なんでも良いので具体的に書くことが大切です。睡眠時間なら何時間、スポーツなら週に何回といった具合にです。
私も最初は書けなくてコーチに叱られながら無理やり書きました。「睡眠時間7時間」「ランニングを週に3回」といった具合にね。とはいえ、書いた後もやる気はなかったんです。
でもコーチが毎週しつこく聞いてくるんですね。それで、仕方なく書いた通りに取り組んでみたら、驚いたことに仕事も捗るし、家庭でもイライラしなくなって非常に素晴らしい結果が出てしまった。
その経験から、自分の時間を意識して作る事は、仕事と家庭の両立の上でも非常に大切だと気付きました。今では、仕事も家庭も全てが嵐のように混乱して寝る時間もないような時でも、あえて外にランニングに行っちゃうんです。そうすると、不思議と全てが上手くいくんですよ。
皆さんには、少しのリリースでいいから自分の時間を確保することを意識して欲しいです。そのために支えられることを、私も今後ミッションをYohanaを通して提供していきたいと考えています。
申 私も今晩早速、Meリストを作ります。本日はありがとうございました。