2023年のジェンダー・ギャップ指数が146カ国中125位と過去最低を記録した日本。いまだに男女格差があると言われる中、性差に対する無意識バイアス(アンコンシャスバイアス)を私たちは理解し、改善していく必要があります。GENDAの申真衣社長も「アンコンシャスバイアスを感じることがある」と話す一人。なぜこのようなバイアスが生じるのか、またどのように改善していくべきなのか。申さんの考えを伺いました。
◆プロフィール
株式会社 GENDA 代表取締役社長
申 真衣
東京大学経済学部経済学科卒。2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。金融法人営業部で金融機関向け債券営業に従事。その後、2010年より金融商品開発部にて、金利・為替系デリバティブの商品開発・提案業務、グローバルな金融規制にかかる助言業務等幅広い業務に従事。2016年4月、金融商品開発部 部長、2017年11月、マネージングディレクターに就任。2018年8月、株式会社GENDA取締役就任。2019年6月より現職。
「女性社長」というだけで驚かれることがある
GENDAにて代表取締役社長を務める申です。今回は「ジェンダー・ギャップに対するアンコンシャスバイアスを企業はどう乗り越えるべきか」という点について、私の考えを述べたいと思います。
創業まもなくからGENDAの社長を務めていますが、私のことを知らない人に仕事上で出会ったとき、必ずと言っていいほど驚いた顔をされます。男性だから、女性だから良い・悪いという話ではなく、多くの人が「社長=男性」というイメージを持っているのだと感じます。
GENDAがゲームセンターを運営するエンタメ企業ということも影響しているかもしれません。ゲーム業界に関わる女性経営者は確かに少ないのですが、実はゲームセンターの来店比率はおおよそ男女半々。店舗によっては女性のほうが多いところもあります。それでも「社長は男性がやるもの」と同様に、「ゲームは男子がやるもの」という思い込みが、未だ根強い気がします。
今は男性だけ、女性だけをターゲットとしたサービスは減ってきています。プリキュアにハマる男の子も珍しくありません。趣味嗜好だけでなく、子育てにしっかり参加したいからフレキシブルな働き方を選ぶ男性が増えるなど、時代は変化しています。特に若い世代は顕著。女性だから、男性だからこういう仕事、働き方をすべきという考えはどんどん減っているのです。
ダイバーシティは「男女比だけで語られるべきではない」
GENDA単体の従業員数は100人弱ですが、女性の管理職はもちろんいます。とはいえ、「女性だから」という採用はしていません。あくまで、その人が当社の求める人材としてフィットしたからです。封建的な印象を持たれがちな企業にとっては、変化を理解してもらうために女性管理職の割合を示すこともが分かりやすい指標になるでしょう。「世の中には男性と女性が半々いる」という点が最初に語られやすいのですが、ダイバーシティには年齢や学歴、出身地、宗教など、性別以外のさまざま切り口があるのです。
ダイバーシティのある企業ほど、心理的安全性が確保され、さまざまな意見が出やすいのは間違いありません。しかし、それは性別だけでは達成できません。例えば体育会系のカルチャーが強い職場では、「そうではない側」にとって閉鎖的な空間です。経営者としては多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を作っていきたいです。
その上で先ほど紹介したような「社長=男性」「ゲーム=男性」という無意識(アンコンシャス)バイアスは大きな障壁となります。大したことではない、よくあることだと見逃さず、一人一人の意識を変えていくことが大切です。ミダスキャピタルが開催したアンコンシャスバイアスに関する勉強会(https://talent.midascapital.jp/event_report/20221206/)に私も参加しましたが、改めて気づくことがたくさんありました。
ここ数年、アンコンシャスバイアスへの認知を広げる取り組みが広がっています。ものごとや人に対する何らかの偏見は誰もが持っているものですが、それに気づかない場合も多いでしょう。一度はっきりと認識することによって、自分がより生きやすくなるきっかけになる可能性もあります。アンコンシャスバイアスに気づくための診断もありますので、まずはここから理解を深めてはいかがでしょうか(https://www.jtuc-rengo.or.jp/action/diversity/)。
女性の正規雇用率は年齢が上がるごとに低下している
ダイバーシティを推進したいという思いの一方で、スタートアップに挑戦する女性が少ないという課題も感じています。前職の金融機関はジェンダーギャップ解消に力を入れていたこともあり、新卒時は男女がほぼ同数採用され、昇進のペースも同じでした。しかし中途採用で入ってくるのは男性ばかり。なぜなら、そのポジションに応募してくる女性がほとんどいないからです。
あくまで私見ですが、キャリアアップを求めているものの、出産・育児を鑑みてその選択をしづらくなってしまっている女性が一定いるのではないかと思います。むしろ「家族を支えたい」「いつか産休を取るから」などの事情で、キャリアダウンの転職をする人も多いのではないでしょうか。実際、女性の就業率は上がっているものの、正規雇用率は25~29歳の59.7%をピークにどんどん低下しています。
出典「男女共同参画白書 令和5年版」(内閣府)
ところで、2023年度のノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディン氏の著書『なぜ男女の賃金に格差があるのか』によると、男女の給与格差のほとんどがフレキシブルな働き方を選ぶことによるペナルティで説明できるそうです。フレキシブルな働き方を選ぶと、稼働時間が減るだけでなく、時間あたりの給与も下がる傾向にある、そして男性よりも女性の方がフレキシブルな働き方を選択する場合が多いということです。家庭の中でも家事育児の分担が女性だけに偏らないように考えていく必要があると思いますが、同時に企業には男女問わずフレキシブルに働ける環境を整える責任があると感じます。
スタートアップに挑戦する女性が増えることで、社会は変わっていく
働きやすさという点では、ここ数年でスタートアップを取り巻く状況は確実に良くなっていると感じています。調達環境が向上することで給与も上がっています。かつてのイメージで「スタートアップはやりがい搾取で労働環境が過酷」と捉えられがちですが、実は動きが早い分、より良い方向へ舵を切るのも早いのです。
GENDAは、フルリモート、フルフレックスを採用しています。北海道で採用し、現地在住のまま勤務している人もいますし、入社してから仙台に引っ越した人もいます。特にエンジニアはリモートで働く文化や仕組みが整っています。その他の職種でオフィスに通える範囲に住んでいる人も、出社するかどうかは個人の判断に任せています。マネジメントとして気を配るのは、どこで仕事をしていても、パフォーマンスが出せるようにすること。そして、パフォーマンスに応じて報酬を支払うことです。
挑戦することには勇気が伴います。でも、思い切って踏み出した先には、まだ見たことがない新しい景色が広がっていると思います。その背中を押せるよう、私もできる限りのことはやっていきたいと思っています。これまでにもミダスキャピタルと一緒に、主にスタートアップでCxOキャリアを志向したい人に向けたキャリアセミナーを何度か開催しました(https://talent.midascapital.jp/event_report/20221118/)。ここで話を聞いたことで、より具体的なイメージが持てるようになったという人もいます。今後もこの輪を広げていきたいです。
挑戦する女性が増えること、そしてそれに対して男性が構えなくなることで、確実に社会は変わっていきます。働く人誰もが輝く未来に向けて、これからも歩み続けていくつもりです。
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